ついにリリースされた陳綺貞の四枚目。しかし初回リリース分はあっという間に完賣してしまった為に手に入れることが出來ませんで、最近になってようやくゲットしたという次第です。
ジャケの装丁はこの前のベスト版「精選CHEER」と同樣の凝りまくったもので、ピンボケっぽい彼女の寫眞と中の薄暗いスナップがちょっとアレなんですけど、個人的には白のワンピースを纏った彼女の胸の谷間がちょっと氣になってしまったのでありました、……ってそんなことはどうでもよくてやはり氣になるのは、魔岩唱片を飛び出して彼女の音がどのように變わったのか。そこでしょう。
結論からいうと、ロックっぽいギターはよりロックっぽく、それでいてファーストを思わせる大胆なストリングスの導入も相俟って、今までの陳綺貞のアルバムの集大成的な雰囲気を感じさせます。その一方で特にセカンドに顯著だった元気印の曲調が後退し、大人っぽい落ち着いた風格が全編に感じられるところが特徴でしょうか。
それでも彼女の可愛すぎる声と樣々なギターの音色が釀し出す獨特の風格はそのままに、すべての曲に何かふっきれたような力強さが感じられるのがいい。
冒頭を飾る「旅行的意義」は甘すぎるストリングスの導入部がどうにも懷かしい日本のアイドルっぽい展開なんですけど、間奏部の何処までも伸びていくストリングスの無類の美しさが素晴らしい。
續く「腐朽」も「旅行的意義」と同樣、ストリングの導入部から、彼女の靜かな彈き語り風へと變じるあたりの展開は當に陳綺貞の獨壇場。特にここでも間奏部のストリングスが雰囲気を盛り上げています。このあたりがセカンドからサード「吉他手」の風格とは大きく異なるところでしょうか。
「Sentimental Kills」は一転して、凶惡っぽいギターのうねりから始まり、何と歌詞は英語。何となくこの歌い方がCHARAっぽいのがアレなんですけど、英語で歌ってもやはり陳綺貞は陳綺貞。本アルバム収録曲のなかでは一番ロックっぽい曲調です。
タイトル曲にもなっている「華麗的冒險」はセカンドからサードの雰囲気をそのままに、低音部の強調された音の重みが今までとは違うところ。またサビの部分の後方で鳴っているギターの音色も厚みがあり、サードでの試みが見事に昇華されています。
「太多」はミニマルっぽいピアノの導入部にアレッとさせられますが、歌が始まってみれば當に今までの風格で、チェロとピアノの落ち着いた旋律が室内樂っぽい雰囲気を釀し出しています。
「花的姿態」は寂しげなギターアルペジオから始まり、伸びやかなギターとバンジョーっぽい音のかけあいにこれまたストリングが華麗に重なり、歌の導入部へと轉じます。この曲もストリングスとギターの樣々な音色の重なりが巧み。
「Self」も過去のアルバムの風格を繼承するもので、安心して聽くことの出來る一曲。
「80%完美的日子」はムード音樂っぽいバックに陳綺貞の落ち着いた歌が印象的。
「表面的和平」もライブではギターの彈き語りでしっとりと聽かせる一曲でしょう。やはりこういう小粒な曲だと彼女の声が俄然映えますねえ。
「靜靜的生活」も「80%完美的日子」と同樣の曲調。大人っぽい雰囲気というか、今までの陳綺貞のアルバムではちょっと見られなかった雰囲気です。ただ彼女の声が入ると、おしなべて陳綺貞の曲へと轉じてしまうから不思議ですよ。まあ、それだけ彼女の声が魅力的だということでもあるんですけど。この曲は中間部でふっと歌い方が變わるんですよ。ちょっと氣取って淡々と歌っていたところで、急に可愛い、いつもの歌い方へと戻るのですが、それがいい。
そしてラストを飾る「最初的起點」は今までの曲調とは一転して、妙にとぼけた雰囲気が微笑ましい。懷かしトラッドみたいな間奏部が何ともいえません。
という譯で、全体の雰囲気はセカンド、サードとは大きく異なるものながら、彼女の歌が入ってしまえばもう完全に陳綺貞のアルバムそのものである譯で、今までのファンならマスト、そして新たにこのアルバムから陳綺貞を聽いてやろうと興味を示された方にも自信を持っておすすめすることが出來る一作であります。作風の幅が広がり、次の展開も大いに期待出來るアルバムであるといえましょう。おすすめ。