今でこそ登校拒否なんてものは當たり前過ぎて、学校を休んでもそれほど世間の瞳も厳しいものではありませんけど、かつて登校拒否は精神の病と考えられている時代があった、……っていうか、自分の高校時代の話。
高校一年の時にどうにも学校に行くのが嫌になって、大学病院の精神科でカウンセリングを受けてみたり、或いは數年前、前の会社で鬱病にかかった時にも地元の心療内科の先生に御世話になったりと、決して精神病とは無縁ではない自分にはたいへん興味深く讀むことが出来た一册でありました。
また牧野修の「偏執の芳香」がお氣に入りの一册である自分には、別の意味で大変刺激的な本であったと付け加えておく。
何より患者の描写、というか台詞が鮮烈である。プロローグに登場する、「ケータイ、ケータイ、誰かケータイ持ってないか!もう時間がないんだよ! ナンバーワンを呼んでこい!ブッシュだよ、ビン・ラディンだよ! タリバンだよっ! アメリカァァ! 戦争をやめさせてくれェェェ!」と絶叫するサラリーマンも素晴らしいが、中盤に登場する中年の女性が良い。「あんたはビン・ラディンや!ピラミッドの中のカリスマや!」と關西弁で奇妙な言葉を口走る樣相が、何というか、妙にリアルである。
勿論、この本の白眉は精神病治療が抱えている社會的問題を眞摯に考察しているところにあるのであって、このような患者の奇妙な樣態を愉しむところにあるわけではない、……のだけども、樣々な患者の描写がこの本のウリのひとつになっていることは認めないといけないでしょう。私も本屋で手にとって、冒頭の中年サラリーマンの狂いっぷりに引き込まれて購入してしまったクチなので。