ドキドキ胸キュン、アリバイトリック。
四月に續いて五月も讀んでみました。このシリーズのいいところは薄いながらも、本格の趣向がイッパイに詰め込まれているところでありまして、本作でもアリバイ崩しなんていかにも地味なネタだけではマニアは決して胸キュンしないッ、とばかりに見立てや奇天烈な屍体の趣向も添えて見せまくります。
物語の主人公は件の娘っ子で、ボーイフレンドにして彼女のママからの受けも拔群なクール君、さらには彼のライバルとなる探偵志願の先輩の三人という布陣。前回は冒頭から、ヒロインの転校生が寝坊して、いけないッ遅刻しちゃうッ!というベタベタナなオープニングが相當にアレだった譯ですが、今回もパソコンは苦手という娘っ子に件のクールガイが當に「手取り」足取り操作の仕方を教えてあげるというシーンが用意されおりまして、メールに添付されていたアドレスにアクセスするとムキムキマンの寫眞がジャカスカ出て來て吃驚仰天、慌てふためくヒロインに件のクール君は、「こういう時はメイン画面をまず閉じるんだ」と冷静至極。しかしここでもお決まりのベタベタなシーンがシッカリ用意されているところが霧舎流で、
琴葉は軽い放心状態のまま作業を見守っていたが、モニターから黒光りする筋肉が一掃されると、
「ちょっと……」
もぞもぞするように身をもじった。
「その手」と、マウスを握っている棚彦の手を指さした。
「いつまで握っているのよ」
棚彦の手の下には、琴葉の右手が置かれていた。
「おまえが手を引っ込めないからだろ」
言って、マウスから、琴葉から、手を離す棚彦。
しかしこのラブコメテイストも、サーバールームからピンクのペンキに塗られた奇天烈屍体が出て來たことで急展開。このペンキ女の屍体に絡めて、見立て殺人の趣向を添えつつも、物語はタイトルにもある通りに、三枚の寫眞を使った鐵壁のアリバイ崩しで盛り上がります。
中盤に見られる、犯人は何故ペンキを屍体に塗りたくったのか、というところを推理していく展開も本作の見所のひとつながら、個人的にはアリバイ崩しや見立てよりも、この事件の真相が「時間差のある」アレだと探偵君がいうところにグッときました。
アリバイ崩しといいつつ、本作では怪しすぎるアリバイ写真のトリックを犯人はいかにつくりあげたのかというところが秀逸で、アリバイ崩しもののミステリはあまり好きではないという作者が、ややもすれば退屈になりがちなアリバイ崩しという趣向の「見せ方」に腐心した痕跡が隨所に感じられます。
鮎川ミステリっぽい写真の扱いながらも、その仕掛けには幾重もの工夫が凝らされているところは當に本格ミステリ。ベタベタなラブコメテイストで押しまくりつつも、本格の結構と見せ場はシッカリと用意してあるこのシリーズの狙いは見事に成功していると思います。
事件が見事解決したあとは、これまたベタベタのラブコメに急旋回して、「いまさら、だけど……おまえ、制服、似合ってるからな」なんて、こちらがあまりの恥ずかしさに身悶えしてしまうような台詞をシレっと口にしてしまうクール君の造詣も素晴らしいの一言。背筋をゾクゾクさせながら溢れるばかりのラブコメ風味に醉うも良し、その正統を行く本格の風格に驚くのも良し、という譯で、個人的には本作、「四月」以上に愉しめました。