ジャケもアレだし、タイトルもアレだしということで躊躇っていたのですけど、讀んでみれば存外にマトモでごくごく普通の本格でした。霧舎氏といえば、自分の中では本格のド真ん中をいく奇天烈物理トリックなどをテンコモリにした風格に、デレデレメロメロのアレ過ぎる脱力ロマンスのフレーバーを大量投入した作品、というイメージが強い譯ですけど、本作の場合、そもそも漫画チックに舞台も学園に据えてあるためか、メロメロのラブコメ風味も作品の中にシッカリと馴染んでエグさは皆無。
そもそもノッケからヒロインの娘っ子が転校初日に「いけないッ、遅刻しちゃうッ!」という、あまりにベタ過ぎる展開は「金田一少年」や「コナン」というよりは七十年代の漫画のソレじゃないのかなア、なんて感じもするのですけど、この転校してきた娘っ子はこちらの期待通りに初日からさっそく殺人事件に巻き込まれてしまいます。
殺された男が彼女の前の學校の先生だったり、運命の人宣言をブチあげた自称名探偵、さらにはお母様のウケもいい本命ボーイなど、ヒロインの周囲を取り巻くキャラも盤石ながら、そこへ學校の伝説も絡めてキスしたキスしないとも盛り上がるラブコメテイストはかなりアレ。
とはいえ、やはり學園ものという結構が、そういったデレデレメロメロの展開を自然に見せているところは好印象で、娘っ子を中心に自称探偵君と本命ボーイの二人を探偵に据えて、コロシの目撃証言やケータイ電話といったアイテムをネタにして推理が開陳されていく展開も非常にスムーズ。
被害者には焦點を當てずに、探偵たちがコロシの現場状況に大夢中という漫画チックな展開が、意外にも事件の眞相を遠ざける仕掛けになっているところや、被害者の携帯電話が思わぬ場所で發見されるところに眞相へと至る鍵が隱されているところなど、ユルい學園ものの外枠を持ちながらも、後半の手堅い推理へと至る伏線も巧みで、個人的には普通に愉しめました。
実際、この犯人は自分にとっては十分に意外で、特に漫画チックなジャケと、登場人物紹介の絵柄にスッカリ騙されてしまったというか、漫画チックな装丁を騙しに使ったともいえるネタにはちょっとニヤニヤしてしまいました。
また、このデレデレの雰圍氣に相反して、動機が生臭いところのギャップにも注目ながら、個人的にはこのあたりでもっと奇天烈なネタを出してくれればもっと愉しめたカモしれません。
キワモノマニア的な視點から見ると、デブ男が吹いていた唾まみれのフルートを不思議ちゃんが咥えて間接キッスとか、そういったユルいファンタジーがない分、讀後にはやや不満も残るとはいえ、このあたりはあくまでキワモノ嗜好のオジサンの我が儘ゆえ、「金田一少年」や「コナン」の讀者層を想定しているのであればこの作風はかなりアピール出來るのではないでしょうか。「五月」も既に入手濟なので、近いうちに讀んでみようと思います。