これは素晴らし過ぎます。御大ファンは必見でしょう。というか、自分は初めて御大の話されている聲を聞きましたよ。因みに左手にいる對談の御相手は既晴氏です。
これは素晴らし過ぎます。御大ファンは必見でしょう。というか、自分は初めて御大の話されている聲を聞きましたよ。因みに左手にいる對談の御相手は既晴氏です。
冥途ねじ式ドグマグラ。
要するに「ハグルマ」みたいに夢だか妄想だか幻覚だかリアルなんだか判然としない現象が主人公の廻りに起こりまくって、譯も分からずジ・エンド、というお話です。
この系統の作品はあらすじを追うこと自体がナンセンスだと分かっているので、信樂焼の狸が夜中にグルグル廻ったり、黒服男が登場して主人公を拉致、とか宇宙人の死体解剖とかのトンデモネタに惚けたユーモアも織り交ぜた不条理世界が目の前に流れていくのを堪能するのが吉、でしょう。
逆にいうと小説そのものに畫然とした結構を求めてしまう人にはマッタク受け付けられない風格で、ジャケ裏にもあるような「賣れないホラー作家に持ち込まれた夢を記録するだけの実驗だという怪しげなアルバイト」をきっかけに「繰り返しある悪夢にとりつかれることになる」という、その恐怖体験をネチっこく描いた物語、なんて期待して讀み始めると大きく裏切られることになってしまいます。
讀了したあとも頭に残っているのは、グルグル廻る信樂焼の狸とか、頭がパカンと割れたナンセンスの情景とか、宇宙人の解剖とかそんなものばかりなところがアレながら、關西弁も織り交ぜた獨特の惚けた文体が、奇妙にねじくれた幻影世界と妙にマッチしているのもある意味奇蹟。
平易な語りによって語られる宇宙人ネタや黒服男といった定番のトンデモも、牧野氏の「偏執の芳香」ほど強烈な呪力を喚起する譯ではなく、あくまで飄々とした中にある不条理の恐怖を追いかけながら讀み進めるべき作品でしょう。
角川ホラー文庫ながら、ホラー文庫ということで想起される恐怖感ではなく、寧ろ不条理な地獄が延々と繰り返される悪夢的な恐ろしさが際だっているところが作者の持ち味ゆえ、同時にリリースされたクラニーの「うしろ」と同様、ホラー文庫のファンが本作の風格を素直に受け容れることが出來るかは正直微妙、といったところでしょうか。
折り込みチラシで熟読博士は恐怖度に「忌憶」同様、五つ星をつけておりますが、上にも述べた通り「忌憶」の恐怖とは大きくその風格が異なるゆえ、ゆめゆめこの評價を鵜呑みにされないよう、……なとど注意書きを添えなくとも「ハグルマ」がツボだった自分のような趣味嗜好の方は愉しめると思います。