韓國映畫ものノベライズとしては、作者の三作目となる作品。映畫を下敷きにしているとはいえ、やはり徹頭徹尾大石圭テイストが満喫出來る佳作でありました。
あらすじの方は映畫のサイトとかを參照してもらうとして、やはり氣になるのは映畫の世界觀を尊重しつつ、この物語をいかほどに大石圭ワールドへ染め上げているのか、と。そこですよねえ。
結論からいうと、クムジャさんに復讐される男の鬼畜ぶりや、魔女と呼ばれるサド女、暴力男に奴隸のように奉仕するダメ女など、大石圭ワールドの住人が総出演というかんじでして、大石圭ファンも安心して讀み進めることが出來るつくりとなっています。
冒頭、サンタの恰好をしてクムジャさんの出處を心待ちにしている男連中の阿呆ぶりや、彼らがいそいそと差し出した豆腐(これからは豆腐のように眞っ白に生きられるように、という願いを込めて、出處した者には豆腐を与える習慣がかの國にはあるとのこと)をバシッと拂いのけ、「大きな御世話」なんて蓮っ葉な言葉を投げつけるクムジャさん、そしてそんなアバズレみたいになってしまったクムジャさんを前にしてポカーンと佇むしかない男連中の描写など、最初からかなり飛ばしています。
物語の中程まで、クムジャさんに關わった人間のインタビューという體裁で、クムジャさんのエピソードが語られていき、彼女の人となりが少しづつ明らかにされていきます。最初の方はとにかくクムジャさんマンセーな発言が續くのですが、同じ刑務所に服役していた女たちの語りが加わることによって、天使のような顏をしていたクムジャさんの恐ろしい裏の顏が明かされていくのです。
その中では魔女といわれていたデブレズサド女をしれっとした顏をして殺してしまったクムジャさんの插話がかなりいい。この話を物語る奴隸女がまたかなり悲慘な女性で、クムジャさんより先に出處した彼女はクムジャさんの頼みで、復讐する男の居所を搜し當て、擧げ句にその男と結婚させられてしまうんですよ。そして大石圭ワールドでは御約束の暴力セックスの餌食にされてしまう譯です。後半はこのサド男に先手をとられて復讐計畫を氣取られてしまい、彼女はこれまた御約束通りにボコボコにされてしまいます。この男が放った刺客を返り討ちにするクムジャさんの鬼っぷりもかなり光っています。
で、クムジャさんが復讐するこの男なんですけど、とにかく畜生にも悖るトンデモない輩でありまして、英語教室なんかを開いていかにも善人ぶった振る舞いをしているんですけど、その實態は超弩級のサド男。「アンダー・ユア・ベット」でランクルをブイブイ乗りまわしていた暴力夫を上回る鬼畜ぶりがかなりキツい。まあ、それでもこれまた御約束通り、最後はクムジャさんからむちゃくちゃな拷問を受けてジ・エンド、という展開なんですけど、話によるとこの作品の結末と映畫のそれとは異なるとか。
自分としてはこの終盤の展開はかなり氣に入っているんですけど、映畫の方はやはりクムジャさんの獨壇場で男をメタメタにするようなお話になっているんでしょうか。善人がクムジャさんの植えつけた小さなきっかけによって惡人を上回る鬼畜人間に覚醒する、というあたりは、「自由殺人」の主題とも相通じるものがあると思うのですけど如何でしょう。
小さな插話を重ねていくことによってクムジャさんの人物造形を明らかにしていく構成や、復讐される男の話を後半に至ってようやく展開させていくところなど、物語の組み方がいつものような一本調子ではないところに大石センセの新機軸を見たような氣がします。それでいて、登場人物が感極まって「ああっ」と呻き聲を洩らしてしまうところや、奴隸女がまた例によって例のことをやらされて「うぶっ、……うむっ」と悶えてしまうシーンなど、大石ワールドでは御約束の展開もしっかり用意されていて、ファンも期待通りの筋運びにニンマリしてしまう作品といえるでしょう。ファンは勿論マスト。