すっかり騙されてしまいました。
子供向けの體裁を持っているこのシリーズですけども、本作の仕掛けと推理は一級品です。
暗い部屋の四隅に四人の人間が立って、順番に方を叩きながら部屋を廻るという四人ゲームをしているうちに突然現れたもうひとり。そのうちのひとりが座敷童なのだがそれは誰なのか、という謎があり、その一方で行者の呪いを裝った毒殺未遂事件に、人魂の出現、沼縁に佇む地藏の移動といった怪異が次々とあらわれます。
いったい毒殺未遂事件の犯人は誰なのか、そして數々の不可解な出來事は何を意味するのか、……というかんじで物語が展開するのですけど、実は自分、完全に讀み方を間違っていましたよ。
というのも、この物語、座敷童が五人のうちの誰なのか、ということが毒殺未遂事件の犯人當てと同じくらいの比重で重要なものなのですけど、自分は座敷童も何かしらの現実的なトリックが使われているものだと勘違いしてしまいまして。
五人が五人、同じように嘘をつく筈はないので、皆は皆何かしらの考えがあって座敷童を「演じている」誰かを庇っているのだろう。だとすると、……なんて考えながら先に進んでしまったものですから、終盤、座敷童の正体が明らかになったときには吃驚してしまいました。なるほど、「座敷童が本當に存在する世界」のお話だったのですね、本作は。
という譯で未讀のひと、本作は座敷童という怪異が事実として存在する世界のお話なので、そこのところを間違えないように、……って普通は皆、そう分かっていて讀み始めますか。
毒殺未遂事件の犯人を推理していく過程は非常にスリリングで、この單純なトリックをうまく隱している手腕は流石。
緻密なロジックを驅使して、今までの推理の前提にしていた事柄をひっくり返し、容疑者をひとりまたひとりと外していくというやり方は當にロジックの正統派ミステリのそれでしょう。自分はこの子供たちと同樣に、全然逆に考えてしまっていて、どういうふうに毒を盛ったのかまったく分かりませんでした。まさかこんな單純な方法を使っていたとは。
そしてこの事件の犯人があきらかになると同時に、座敷童が誰であるのかも分かってしまうという仕掛けが素晴らしい。ミステリとしての密度もさることながら、物語の謎と絡めた構成の妙が光ります。
斷じて子供向けではない仕掛けとロジックを使ったミステリの傑作。しかし物語の結び方など、このシリーズにふさわしい纏め方も素晴らしく、謎解きの難しさが分からない子供でも愉しめること請けあいです。夏に讀むべき極上のミステリでありましょう。おすすめ。