歌野晶午の代表作のひとつといえるでしょう。ネタはバレバレですけど。
「葉桜の季節に君を想うということ」で見事に騙されたひとも、本作の謎解きは比較的容易なのではないでしょうか。というのも、これは歌野氏の性格によるものと思うのですが、仕掛けを意識的に隱そうとしていないように思えるのです。
本作の謎は、とにかく前世の記憶、……ぼくは第二の人生を送っていて、前世では或る雨の日、バロン・サムデイに殺された。そしてこの前世で自分は黒人だった、というこの奇天烈な話に超常的でない、論理的な説明をなすことは可能かということに尽きると思うのですけど、ぼくの出生の秘密がチラチラとしてくるあたりから、どう考えたって眞相はこれしか考えられないでしょう、という氣がしてきます。
それでもこれは立派なミステリなのですから、こんなアマい事実で話を纏める筈もなく、作者のこと、さらに一捻り、二捻りしてくるでしょう、と考えつつ先に進みます。でついに眞相があきらかにされた時、……別の意味で唖然としてしまいましたよ。だって、自分が考えていた通りだった譯で、その仕掛けが。ここまでベタで、正直な作品も近頃は珍しいですよ、本當に。
物語の筋運びは巧みで、この子供探偵の造型といい、とにかくすらすらと讀めてしまいます。まったくつかえることもなく最後の眞相まで讀み進めることが出來るのはさすが。
そういえば、デビュー作の仕掛けはバレバレだったし、良い意味でも惡い意味でも、作者らしさが出ている作品だと思います。前世の記憶という魅力的なテーマに果敢に挑んでみたものの、その開陳の仕方と物語の勸め方があまりにベタなところが欠點といえば欠點でしょうか。