そういえば我孫子武丸の本を全然取り上げていないことに氣がつきました。
自分的にツボだったのはやはり「殺戮にいたる病」なのですけど、この小説は既に語り盡くされてしまっているような感もあるし、同じ系統の仕掛けを用いながらも、軽い作風の本作を。
本作は「探偵映画」という映画の物語に關する小説で、タイトルは「探偵映画」。もうこのあたりでメタ系のお話が好きな御仁はニヤリとされてしまうのでしょうけど、作者があとがきで誇らしげにいっているほどメタミステリしている譯ではありません。
というか、「誰のための綾織」や「紅楼夢の殺人」を体驗してしまったいまとなっては、本作を讀み返してみると懷かしい感覺さえあります。そう、仕掛けも單純で、さながらミステリの古典を讀んだときの感覺に似ているというか。すでにメタミステリは上に上げた二作で新しい段階へと深化/進化しているのです。
本作は寧ろこういうミステリ的な仕掛けよりも、登場人物たちが釀し出すユーモアを堪能すべきでしょう。映画を題材にした物語と言えば、最近レビューした「不思議の国のアリバイ」もそうでしたけど、本作もあれと同樣、登場人物たちはさながら映画のなかのキャラクタのごとく、いいひとたちばかり。失踪した監督が映画の結末をどのようにするつもりだったのかを皆があれこれと考えながら議論するところが妙に笑えます。
くだらないトリックをこねくりまわして、自分が事件の犯人役だったと皆が皆主張するのですが、その犯行方法も莫迦莫迦しいこと。
そして語り手の「ぼく」と記録係の美奈子の會話が愉しい。デートをしたりしていい雰圍氣になったりするんですけど、何故か美奈子は途中から「ぼく」を避けるようになります。自分にはまったく惡いことをした憶えがないので、何故なのだろうと考えるのですが、まったく手掛かりがありません。この理由については最後の方であきらかにされるのですが、このあたりも本當に映畫的です。
さて、そうはいってもミステリ作家の物語なので、仕掛けの部分についても少しは書いておく必要があるかと思うのですけど、肝心のメタな趣向は、……自分的にはちょっと、でした。
というか、「ふうん、だから何?」というかんじで吃驚するほどのものではなかったのですけど、それはひとえに作者が「ぼく」と美奈子の會話のなかでこの仕掛けについて言及してしまっているのが原因です。作者としてはメタとしてもフェアで、という考えなのかもしれませんが、ちょっと勿體ないですよねえ。
それでも作者の代表作であることは間違いないでしょう。我孫子氏の輕妙なユーモアが好きな人にはマストな一册。