期待通りというか、物語はマッタク異なるものの、ある種、大石センセにも通じる定番の風格がファンにはタマらない平山氏の短編集。「ミサイルマン」に比較すると、発表された媒体の違いゆえか、何となく「東京伝説」を彷彿とさせるイヤ話を短編の結構に纏め上げた雰囲気の逸品もあったりと、SF風の作品よりはコッチの方が好みという自分としては大いに堪能しました。
収録作は、「ふるえて眠れない ホラーミステリー傑作選」にも収録されていた表題作「他人事」、引きこもりの怪物息子を殺そうとする父親の奈落を描いた「倅解体」、東京伝説フウに、キ印の料理人が娘を誘拐した挙げ句、マイホームに押しかけてくるという地獄「たったひとくちで……」、ダメ男とダメ女二人の、センチメンタルな溶解人間逃避行「おふくろと歯車」、イヤ女から猫を預かったばかりにキ印ヤンキーたちから壮絶な拷問を受ける婆の地獄「仔猫と天然ガス」。
ブラック過ぎる奇想とSF的な設定が筒井康隆フウに突き抜ける「定年忌」、不思議ちゃんの魔力に翻弄されるダメ男の語り「恐怖症召喚」、猫が持ってきたブツが女を狂氣の淵へと追いつめていく「伝書猫」、馬鹿野郎どものキャンプ騒ぎにキ印が乱入してトンデモな事態に陥る「しょっぱいBBQ」、イジメの救援信号がエリート野郎どもの陰湿ぶりを明らかにする「れざれはおそろしい」、飛び降り自殺を試みる二人の男女のおセンチなトークに平山氏ならではの惡魔主義が炸裂する「人間失格」など、全十四編。
表題作である「他人事」の惡魔主義も完全に常軌を逸しているとはいえ、今回の収録作の中、その鬼畜ぶりの凄まじさという點では「人間失格」がピカ一で、飛び降り自殺を試みる娘を男が引き留めて、……という古風な導入部から、二人のおセンチな會話が續くものの、最後にはシッカリと鬼畜なオチで締めくくるところが平山節。
ある程度のオチを予見させながら、それとは少し外れたところでイヤっぽい幕引きを添えでいるのが、「たったひとくちで……」で、娘が誘拐され、自宅に押しかけてきたキ印の犯人が料理人で、さらには自分が作った料理を喰え喰えとシツコク迫る、とあれば、おおよその予想はつくものの、それとはややずれたところへ、何とも不安氣な余韻を残した結末へと流れる展開が素晴らしい。
平山ワールドでは定番の結構といえるグロとセンチメンタルの素晴らしい融合を堪能できるのが「おふくろと歯車」で、主要登場人物は親から虐待を受けている男と女という、期待通りの配役で魅せてくれます。二人はリアル地獄から逃れるために逃避行を試みるも、その悲惨にして叙情的な美しささえ感じさせる後半の展開が何とももの哀しい。収録作の中ではお気に入りの一編でしょうか。
異様な結構に騙しの趣向を凝らしている作品も魅力的で、例えば「倅解体」は、引きこもりとなった息子の殺害を決意した男が妻とともにその計画を練っていくのだが、……という描写の端々から感じられる妻のキ印ぶりなども添えて、次第次第に引きこもりの倅が部屋ン中で行っているとおぼしき所行が明かにされていきます。件のグロっぽいネタを開陳してそのまま終わりかと思いきや、アンマリなオチで締めくくるという悪魔主義的な風格が堪りません。
また「伝書猫」も、猫がくわえてきた小指に救援信号が書かれていたことから、それを見つけた女が、監禁犯とおぼしき鬼畜野郎から追いかけ回されるという話。徐々に緊張感を高めていく展開から、唐突にあるオチでその狂氣が明らかにされるところでは見事に騙されてしまいましたよ。
不条理な地獄という、東京伝説的な風格では「仔猫と天然ガス」があまりに壯絶。人のよいオバさんが、猫の世話を任されるわ、キ印の女からはネチっこく嫌みをいわれるわ、挙げ句に頭のネジの外れたヤンキー野郎の襲撃に會うわ、とその唐突に襲ってくる地獄ぶりは、「SINKER」の後半、シリアルキラーに捕獲されて拷問を受けることになる婆さんを彷彿とさせます。余韻も何もあったもんじゃない非道な幕引きにブンガク的余韻もヘッタクレもないところも最高にアレ。
その點、「しょっぱいBBQ」は、郊外で森林浴しながらキャンプにBBQだとハシャいでいた野郎どもがキ印に襲撃されるという結構そのものこそアレながら、酷い目に遭うのがノータリンどもですから鬼畜度はやや控えめ。寧ろ、死体を見つけても安穏としている登場人物たちの不条理ぶりが奈落へと転じるギャップが愉しく、さらにこのあたりのナンセンスさを際だたせたのが、「定年忌」でしょう。
定年になったら、今までニコニコしていた部下どもが牙を剥いて襲ってくるというムチャクチャぶりに、定年を迎えた人間は社会のゴミというSF的奇想でトンデモな説得力を持たせているあたりは、何だか筒井康隆を彷彿とさせるハジけっぷり。あまりに酷すぎる仕打ちながらグロはやや控えめにしている為か、寧ろ不条理でブラックなユーモアがハジけているところは案外、平山ワールドの新機軸といえるのかもしれません。
収録作のほとんどの発表媒体となっているのが、集英社のケータイ雑誌「the どくしょ」とあったので、ケータイらしい、やや軽めの「つきあってはいけない」みたいな作風かな、なんて讀む前は想像していたのですけど、ケータイといえども、平山氏の鬼畜ぶりは容赦なしで、実話怪談のみならず、「独白するユニバーサル横メルカトル」や「ミサイルマン」で平山ワールドにハマった人でも大いに愉しめるのではないでしょうか。オススメ、でしょう。