折原氏定番のアレ系の作品ながら、本作は非常にシンプルな大技で魅せてくれている故、見事に騙されてしまいました。近作のなかではかなりの出来映えだと思います。

例によって人殺しをやらかしてしまった野郎がキ印を装って罪を逃れ、――とこの殺人事件を本にしてやろうと意気込んで、かつて犯行の現場となった洋館に住み込み、その原稿を仕上げることになった「私」と、人殺しの偽装キ印の手記が交錯して進むという、これまた定番の展開で突っ走ります。

叔母というタイトルにもある通りに、双方の手記には婆さんが大きく絡んでくるのですけど、洋館に住んでいる男の前には件の殺人野郎の母親が登場するわ、さらには家政婦が現れたりと、とにかく怪しい連中をしっかりと舞台の上にあげて期待通りに怪しげな振る舞いをさせるところも折原ミステリの大定番。

しかし本作ではやたらと込み入った構成ではなく、婆さんと若い娘っ子を登場させて二つの手記を照応させる技巧が光っていて、これが最後には見事な連關を見せるという結構が素晴らしい。娘っ子に関しては大凡こんなものではないかなア、というところは容易に推理出来るものの、まさかタイトルに絡めてアレがアレとはまったく思いつきませんでしたよ。

キ印を偽装した青年が資産家で辣腕経営者のオバさんに拾われて、遺産相續のテストを受けさせられるという展開も何だか奇妙ながら、この婆さんがとんでもないイヤキャラでこの青年をイビり倒していくところも本作の見所のひとつでしょうか。さらには家政婦として住み込んでいるこれまた譯ありの婆さんと娘の二人のうち、娘といいカンジになってしまうところもまたまた期待通りで、さらにはこの娘っ子が男とエッチをすませたあとはやたらと奔放、積極的に振る舞ってみせるところも折原ワールドのキャラとしてお馴染みでしょう。

今回は洋館の屋根裏部屋までフィーチャーして、覗き見や手記の発見といった見せ場をつくっているのですけど、折原ミステリといえばやはり頭を殴らせて気絶するという、いつものシーンがどのくらいにあるのかも期待してしまう譯ですけど、グテングテンになって夜の町を徘徊しているうちに蹴躓いて気絶、自分が仕掛けたパチンコ玉に蹴躓き、階段から転げおちて気絶と、前半からこの定番シーンもシッカリと盛り込まれております。

さらに眞相を知った登場人物たちが洋館に参集して、事件のカタをつけてやるとばかりにサスペンスを盛り上げていくところでは、件の気絶シーンを執拗にリフレインさせているところがかなりアレで、殺してやるッと首を絞めていたのがアレだったことに驚いて気絶、定番の背後から頭を打たれて気絶と、ファンの期待を裏切らないサービスぶりが素晴らしい。

個人的には「 グッドバイ―叔父殺人事件」よりもこちらの方が好みで、タイトルの叔母に絡めたシンプルな大技が開陳される本作は旧来からのファンも存分に愉しめる一作だと思います。