幻想ミステリファンのマストアイテム、千街氏の「怪奇幻想ミステリ150選」で紹介されていた本作、前々から讀んでみたいと思って探していたのですがようやく手に入れることが出来ました。で、感想なんですけど、……凄まじい怪作でしたよ(爆)。まあ、普通のミステリとして見たら相当にアレで、犯人はバレバレだし、トリックといってもアレだしと、とにかくアレ尽くしの風格ながら、本作の文章を引用して表現すれば正に「脳細胞のコンピュータの配列が完全に崩壊された」結構が素晴らしすぎます。
物語は会社の同僚がカジュアルな軽装で山登りを敢行するも、もの凄い吹雪に遭難寸前。それでも連中はこの近くにある廃鉱へどうにかこうにか辿り着いて一息つくと、呪い伝説のある洞窟を探検したり、昔の戀人とエッチしたりという愉しみもつかの間、額を矢で貫かれるという衝撃的な方法によって女の一人が殺されてしまいます。その後もこのあたりの呪い伝説をトレースしたような鬼女が登場してはの大混乱、一人また一人と殺されていくという、嵐の山荘状態でのコロシの大盤振る舞いの眞相は……という話。
呪い伝説のある廃鉱に猛吹雪という外連味のある設定もナイスなんですけど、野郎の元戀人であるタカビーなお嬢様(といっても実家は蕎麦屋)や、何だか訳アリで妙にこの鉱山の風物に詳しい娘っ子が遭難状態でワイノワイノと揉めまくる前半の展開も面白い。
すわこのまま吹雪の中で大遭難かというところに廃鉱の建物を見つけてホッと一息つくと、男はタカビーな元戀人とイイカンジになってエッチを始めるという、何だかB級ハリウッドホラーの風格もキワモノマニアとして堪りません。しかし作者の草野氏の、このエッチシーンでのディテールを凝らしまくった熱の入れようは完全に常軌を逸していて、二人の性技についてシッカリと説明をくわえてみせているところを引用するとこんなかんじ。
そしてラストは、かつて二人で共同開発したフィナーレに入った。
それは、ただのコイッスとは違う。
一度一度完全に外に引き抜いてからズブリと突き込むやり方で、これがいかにも女体を犯しているという感じと結びついて、快感を倍増するのである。
むろん女のものが粘液でドロドロになっているのが必須条件で、少しでも摩擦感があってはやれることではないし、快感も味わえない。
それに、このやりかたにはもう一つのコツがある。
その場合、男のものと女のものの位置角度がぴたりと一致しないと、うまく的に入らないことになる。男のものが下の方に滑って、スムーズに突入できないのだ。
そのため、女が指で軽く男のものを握ったままにして、常に正確な位置にあてがってやる必要がある。
これで男の方は安心して、思い切り突撃に専念することができるのだ。
ちなみにこのエロ技巧が謎解きに絡んでくることはマッタクありません。このあとは鬼夜叉に一人また一人と殺されていって、最後は二人になってしまうという定番通りの展開ながら、このあと急に舞台は變轉して事故に遭った小学生がウンタラという事件が語られていくのですけど、この小学生が實は吹雪の中で遭難している連中の一人に大きく関連していることはもうバレバレ。
そうなれば、自然とこの小学生の事故の犯人というのも分かってしまうわけで、そこから遭難している残り二人のいずれが連續殺人の犯人であるのかも判明してしまうという、ミステリとしては猿でも分かるレベルであることは「怪奇幻想ミステリ150選」で千街氏が言及している通りながら、本作の凄まじいところは小学生の事件を追いかけていた警察と、救援信号を受け取った山の下の警察がそれぞれ生き残った二人を探して山を登ってくるところからの展開です。
二人のうちのいずれが犯人であるのかはもう讀者の前には明らかとはいえ、ここである人物が探偵となって謎解きを披露してみせます。何の事情も知らない警察はフムフムなんてその推理に頷いてみせるものの、すっかりアバズレと化したもう一人はだまされるんじゃねえよなんて蓮っ葉な口ぶりで猛反撃。
ついに眞相が明らかにされた後、犯人は逃走をはかるのですけど、……ってこの後の怪異をブチまけたラストの凄まじさは正に異常。結局、逃げた犯人は何だか楳図センセの傑作「おろち」の一編「ふるさと」で、ザッザッザッと隊列を組んでやってきた子供たちにアレされてしまったオッサンみたいに凄いことになって(意味不明)發見されるも、登場人物の一人はその無惨な死体を目の当たりにするやその場で発狂。一応名前だけを伏せ字にしつつこのあたりを引用すると、
「いっひひひひひ……」
突然、甲高い笑い声が起こった。(伏せ字)だった。
「ざまぁみろってんだ、(伏せ字)のやつ。汚ねえ死にざましやがって!その首にしょんべんひっかけてやろうか」
言うなり、Gパンのホックを外すと、くるっと押し下げて真っ白な尻を丸出しにした。
そのまま、ノコノコと土まんじゅうのほうへ歩いて行こうとする。
「や、やめろ!」
慌てて井森が止めにかかる。
その手をはらいのけようとしてもみ合いながらも、
「いひひひひひ……」
と狂ったように笑うのだ。
で、最後は「まさに、黄泉の世界の地獄絵図であった」という一文で締めくくります。最初から死にフラグのたっている登場人物たちの、初体験も含めたプロフィールや、謎解きとはマッタク關係のないセックスシーンに無駄な力を注いだ脱力のディテール、嵐の山荘的な展開だけでも押し切ることが出来るのを後半で突然その構図をブッたぎった構成、さらにはひばりテイスト溢れる壮絶なラストと、キワモノマニア的にはタマらない一冊といえるのではないでしょうか。何だか殆ど引用で終わってしまいましたけど(爆)、このラストの激しさだけでもキワモノマニアは讀む價値アリだと思います。