まだ公式サイトもマトモに立ち上がっていないので、映畫の方がどういう展開を見せるのかはよく分からないんですけど、この林氏によるノベライズを讀んだ限り主人公の刑事を演じる役所広司は當にハマリ役。
物語は、役所広司演じる刑事が、東京灣の埋め立て地を舞台に發生した連續殺人事件へ關わったばかりにトンデモないことになって、……という話。不可解な夢に魘される刑事がヌボーッと現れる赤いコートの女幽霊に吃驚したり、現場で見つかったブツがどうにも自分に關係したものに思えてならなかったり、果たして犯人は俺なんじゃア、……なんて妄想がムンムンに膨らんでいく不穏な空氣は、當に黒沢映畫の眞骨頂。
で、この「黒沢清×役所広司『叫(さけび)』ヴェネチア国際映画祭正式招待決定」の記事によると本作は、黒沢清「初の本格ミステリー」とのことなんですけど、勿論ここでいう本格ミステリー、という言葉がミステリマニアの使用する言葉の意味とは異なるというのはいうまでもありませんか。
確かに物語の主軸は埋め立て地で見つかる連續殺人事件におかれてはいるものの、このノベライズでは主人公の刑事の、現實と夢のあわいを彷徨うような不安感を事件の不可解さに重ね合わせてじっくりと描き出すという手法を採り、物語は事件の發生、推理を經て解決へと至るという定番の展開から徐々に逸脱を見せていくところが面白い。
サイコ風味を添えた幻想ミステリといったかんじの雰圍氣で、寧ろ物語のキモは犯人が誰か、ということよりも、何故刑事はイヤな女幽霊に追いかけ回されるのか、という謎の方が物語を牽引していくのですけど、實は本作、これとはマッタク關係のないところで最後に吃驚なネタが仕込まれていたところには口ポカンですよ。
刑事の視點で話をグイグイと引っ張っていく構成がいい方向に轉んで、自分はこんな仕掛けがあったことには全然氣がつきもしなかったのですけど、映畫でも同じような展開を見せるのかが興味のあるところです。
非常に薄い一册なので、早い人だったらアっという間に讀了してしまう作品乍ら、黒沢ワールドの雰圍氣を非常にうまく表現しているノベライズだと思います。重厚な一册の合間に息抜きとして讀むのが適當かと。