殺り男攻撃、無力警察。
「独白するユニバーサル横メルカトル」祭で本屋に平山センセの本がゾクゾクと平積みになっているという異常事態が全國の本屋で大發生している譯ですけど、本作もそんなブームに乘り遲れてなるものか、というかんじでリリースされたものと思しき、実話恐怖短編集の第二彈。
何しろジャケ帶には「2007年版『このミステリーがすごい!』第1位受賞第一作!」とあって、「このミス」の一位はランクインという意味であって「受賞」というのは一寸違うんじないかなア、なんて考えてしまったりするんですけど、内容の方は「東京伝説」と竝ぶエグさとイヤ感と鬼畜ぶりが炸裂する傑作揃い。
「東京伝説」に比較すると、語られる事件の展開はやや小粒で、エグすぎる話を最初と最後にドカンと持ってくる「東京伝説」の構成とは異なり、終盤に掌編を揃えてみせるあたりが本作の独自色ともいえるでしょう。
収録作は掌編も含めて三十六編、その中でも特に個人的にツボだったのは、牧野センセの「病の世紀」風の痛過ぎる拷問が完全にレブリミットを超えている「3890円」、いよいよ受験シーズン到來という今、電車の中でモノローグの殺り男にロックオンされてしまう恐怖を描いた「イヤフォンジャック」、怪しい宅配男の鬼行に姐さんの空手技が炸裂する「宅配ちゃん」、メルヘンポエム野郎のイヤっぷりが素晴らしい「わたしのししゅう」、メイド喫茶からも出入り禁止されたバルンガ(また登場)の不潔ぶりに、平山センセらしい描寫が冴え渡る「冥途」。
真面目君が印度にハマったばかりに凄まじい堕落を見せつける「インドのラリ男」、ブラザーの愛人になったバカ女の壮絶な末路を描いた「スター」、高飛車女にタカられた貢君からの最後のプレゼントとは「おサイフ君」、「食べさせる」系では本作最兇の極惡度を誇る「二十日鼠と人間」など。
個人的にはやはり「飲ませる」「食べさせる」系のエグい話がツボで、その中でも「食べさせる」に痛い風味をブチ込んだのが「3890円」で、キャバクラ嬢がストーカーにロックオンされる話乍ら、とにかく中盤から大展開されるその拷問ぶりには顔を引きつらせてしまうこと必至の逸品です。また最後にタイトルの意味が明らかになるオチもいい。
「3890円」が痛い話だったら、平山氏の本領発揮ともいえる「汚い」ものを食べさせる話だったらやはり「二十日鼠と人間」がイチオシ。こちらで災難に遭ってしまうのはデリヘル嬢で、客先に出向いていく為に危険はつきものという仕事の内容が輕く紹介されたあと、その最凶の話が語られことになるのですけど、ここで登場するキ印はデリヘル嬢に睡眠藥を飲ませると例によって手錠で固定、さらには口に開口器が嵌めてとあってはもう、次に考えられる展開は明らか、ですよねえ。
「ドブと腐ったゴムの臭い」を発しているという、実際に食べさせられるものの凄まじさはゴキブリと竝び、さらにこのキ印はこれの生きているやつをあるところに入れようするのだが、……ってここへ開口器に續いてクスコというブツが出てくればこれまたこの後の展開は予想できる譯で、デリヘル嬢は最惡の展開を迎えます。
収録作の中でおや、と思ったのが「冥途」で、この作品ではメイド喫茶の娘が「腋臭に齒槽膿漏、吹き出物、おまけに超デブ」という「バルンガ」にロックオンされるお話なんですけど、途中で語り手の平山氏が前に出てきて自分が聞いた話だとしてゲームオタクの逸話を語り出すす構成が新鮮でした。
しかし収録作のほとんどが、日常生活の中で突然殺り男にロックオンされてしまうというお話で、今回は特にそんなキ印に被害を受けても、そいつがお偉いさんの息子だったりして、警察がマッタク助けてくれないばかりか、ホテルやアパートの大家からは損害賠償を請求されてしまうという非情さが際だっています。
そんな中でやはり頼りになるのは裏社會のヤクザだったりする譯で、被害後の展開にヤクザを絡めてそれらの「事件」は一般人の知らないところで闇から闇へと葬られていっている、というオチが、それぞれの逸話によりリアル感を與えているところも素晴らしい。
凄まじ過ぎるお話がほとんど幻想小説といってもいいくらいに突き拔けてしまっている「東京伝説」シリーズに比較すると、ストーカーやキ印といった殺り男の鬼畜ぶりにより焦點を當てた本作は、リアリティという點では平山氏の実話怪談シリーズでもピカ一の出来榮えといえるのではないでしょうか。
個人的には「メルカトル」で平山氏を知ったビギナーが、「東京伝説」シリーズの鬼畜ぶりに馴れる為のウォーミングアップとして讀まれるのがいいのでは、なんて思うのですか如何でしょう。前作がキモだった方、また「東京伝説」がお氣に入りの方も、伏線もなしにキ印が襲撃してくる理不盡と、警察もアテにならないという鬼畜な現代社會の一斷面を垣間見て、ゾッとしてみるのも乙なものかと。