で、また今日も「ウンタラカンタラ」殺人事件なんですけど、草野氏の作品とはいえ、キワモノミステリばかりを扱っているこのブログで「甦った脳髄」とかならいざ知らず、いかにも一昔前のトラベルミステリっぽいタイトルの本作を取り上げてみたというのも、單に「不連続殺人事件」という言葉に惹かれたからでありまして、やはりこの「不連続」が作中で扱われている事件にどう絡んでくるのかが氣になるところ、ですよねえ。
とはいえ結論からいうと、この不連続というのは要するに、二人の殺人犯人が畳みかけるように順繰りに人を殺しているという代物で、簡單にいってしまうとコロシ合戦。
プロローグでは、犯人Aが若い女を殺して観音崎の灯台からすっ裸の死体をブラ下げるというシーンから始まるんですけど、このあと殺された女は賣り出し中のアイドルであることが判明、しかし奇妙なのは犯行現場に旧日本陸軍の三八式歩兵銃の彈が転がっていたということで、これがいったい何を暗示するのか、というところを絡めて、物語の前半はその昔ある詐欺事件に遭ったという男のタレコミをネタにして進みます。
ここに旧日本陸軍がある場所に隱した武器諸々の所在を巡って暗號が登場、どうやらこの詐欺事件の犯人はマンマとこの暗號を手に入れて隱し武器をゲットした後、この武器を使って四國の鉱山から金塊を強奪したらしい。
さらにこの犯人は手に入れた三八式小銃を使って連續強盗殺人事件を大敢行、依然としてこれらの強盗事件は迷宮入りになっているという、……とここで、件のアイドル殺人事件はそっちのけで本作の探偵と警察はタレコミをきっかけに手に入れた暗號を解讀して、その武器の隠し場所が観音崎であることを突き止めます。
この暗號の解讀が本作前半の見せ場のひとつでもあって、アイドル殺人事件をスッカリ抛擲して、作者の筆は解讀した内容を元に観音崎の周辺をウロウロと搜し回る登場人物たちを巧みに描いていくことに費やされる譯ですけど、ついに武器の隠し場所を突き止めてそこを掘り起こしてみると、何とバイクの殘骸と白骨死体が出て來たから流石の警察連中も吃驚仰天。
ここから探偵は、件のアイドル殺人事件は過去の強盗殺人をブチ起こした犯人に復讐しようとしたものの犯行と喝破。既に物語の本筋は件のアイドルのコロシからはすっかり離れてしまって、中盤からは落ち目役者の自殺擬装や、タレコミ男が婆に刺されたりと錯綜を極めます。
復讐される側の犯人はもう中盤で明らかにされてしまうところがアレなんですけど、こいつが警察の推理をそらせる為に、新たなコロシを行うという歪な展開はなかなか斬新で、これ、この人物の名前を最後まで隱したまま二人の犯人の殺人合戦をサスペンスフルに描いたらかなり今風の話に仕上がったんじゃないかなア、という氣もします。
アイドルを殺した犯人が最後の最後で復讐を爲し遂げ、その名前が明かされるのですけどこれが個人的にはいかにも唐突に感じられ、なるほどねえ、と犯人と殺された人物との連關に関心こそするものの、トリックも伏線もナッシングの仕上がりゆえ、ミステリにおける驚愕の眞相とは些か趣を異にするところがかなりアレ。
あと、物語の本筋からは離れるんですけど、中盤、鉱山の金塊強奪シーンで描かれる拷問シーンはかなり慘い。ライターの炎を鼻の穴に近づけて鼻毛を焼くというのはまだいいとして、その後に莨の火を目ン玉に押しつけてというシーンでは、思わず藤子Aセンセならずともギニャー!と絶叫してしまうことは間違いなし(ってこのネタ分かる人はいますか)。
現代のミステリ讀みとしてはやはり前半の暗號の解讀が一番の見所でしょうか。個人的には、復讐する側とされる側が丁々發止の驅け引きを行うかのようにコロシの掛け合いを行うという奇天烈な構成がかなりツボだったんですけど、中盤で一方の犯人の犯行を倒叙でズラズラと描いてしまっている故、謎解きも含めたミステリとしての魅力を減殺してしまっているところが非常に勿体ないなア、と感じた次第です。