自分が讀むような風格の作品ではないんじゃないかなア、なんてかんじで通り過ぎようとしていたんですけど、「猫は勘定にいれません」のたけ14さんの手になる少女マンガっぽい紹介文に感じるものがあり、キワモノマニアのおじさんだって偶には胸キュン体驗してみたいッ(オエッ)という譯で手にとってみましたよ。
物語の主人公は、風來坊カメラマンの父親を持つ女子高生で、彼女が賣り子のバイトをしていたところで、イヤ婆に因縁をつけられてしまいます。で、彼女はこの婆が持っていた高価な皿を割ってしまったが為に弁濟を行う必要が生じてしまうんですけど、ここに寢ているだけでお金が入ってウハウハという旨い話が轉がり込んでくる。
で、そのバイトに飛びついてはみたものの旨い話には當然裏がある譯で、その仕事の内容というのが、病院で死人が出たら召集がかかってその死体運びを手傳う、という因果なもの。葬儀屋のイヤ男や、そのバカ野郎から恐喝されている元戀人、經營難が噂される病院や、葬儀屋と婦長の裏取引など、コロシに繋がる伏線をさりげなく凝らしつつ物語は進みます。
で、案の定、登場人物の中では一番死ねばいいのに、と思っていた件のイヤ男が絞め殺されてしまうのですけど、これが衆人環視の密室状態だったことから、どう考えたって犯人は主人公の女子高生でしかありえない。果たして真犯人は誰なのか、そしてその動機は、……という話。
密室のトリックに關しては中盤で樣々な推理が提示されては退けられていくところがひとつの見所で、個人的には、以前このブログでも紹介したこともある、玄人志向のグラサン男がものにした、昭和テイスト溢れるダメミスでも使われた例のトリックがアッサリと捨てられてしまう剛氣な構成に惹かれましたよ。
衆人環視の密室や見えない人というネタに關しては正直、自分のようなボンクラでも分かってしまうような平易なもの乍ら、タイトルにもある「天使」という言葉と、主人公のちょっとした行動がもうひとつの密室を開いたと明かされるラストの推理が秀逸で、個人的にはこれが事件の動機に絡めて語られるところが素晴らしいと思いました。ある意味本格の王道的な密室殺人とはいえ、このあたりの構成は讀後も印象に残ります。
ただ個人的には同時収録されている「たった、二十九分の誘拐」の方がツボで、こちらは登場人物の弟が誘拐されてしまって、インターハイに出場する彼女は犯人の從うままに振り回されるものの、タッタの二十九分で人質となっていた弟君は解放されてしまう。果たして犯人の意図は、……という話。
携帯電話が警察に絡んでいるものから、推理の冒頭ではトンチンカンな推論が掲げられるものの、最後に探偵が推理した動機には吃驚ですよ。この作者の場合、「天使」もそうだったのですけど、伏線の開示が非常に明快なところが好印象で、「天使」でもやや唐突なかたちで密室の解明にも繋がるあるものについての説明があったし、本作でも誘拐事件が始まる冒頭からこの動機に繋がる事柄について語られています。
輕い乍らも王道的な展開で密使殺人を手堅く纏めた表題作と、犯人の意図を巡る推理と眞相が秀逸な「誘拐」のセットで、非常にお買い得感の高い本作、機會があればすでに書店にも竝んでいるシリーズ第二彈も手にとってみたいと思います。