長編の體裁をとってはいますけど、實際は二つの中編を収録したものと考えた方が良いでしょう。「魔術王事件」を讀んだ後だったので、ここはやはりラビリンスなる怪人の初登場となる本作に眸を通しておかなくては、ということで購入したのですが、いやあ、結構愉しませてもらいました。
中編ということもあるけども、トリック自體は謎が明白で蘭子による解決も結構あっさりしています。例えば最初の寝台特急あさかぜの神祕も、ミステリに寝台特急とくればやはり何か壯大なアリバイトリックでも披露してくれるのかな、と思いきや、事件は密室殺人。それも、東京駅を出発した死體は次の横濱易であっさりと発見されてしまい(とはいっても、不可思議な状況であることは確かなのだけども)、犯人の狡知なアリバイトリックを見拔いて、……というものではなく、密室殺人と被害者が入れ替わったマジックを解き明かすだけというもの。
それでも二階堂黎人が時刻表を驅使したアリバイ崩しものを畫くというのもちょっとヘンだし、まあ、これはこれで良いのかな、と。
「魔術王事件」のラビリンスは男だったわけだけども、もしかして、こっちのラビリンスって女なんですかね?プロローグや蘭子の推理を聽く限り、何か女のような氣が……。
「魔術王事件」でも言及されていた札幌の硝子の家の殺人はこの本の後半に収録されています。これも確かによく讀めば犯人は分かったかもしれない。ぱっぱっと讀み進めていったので推理する暇がありませんでした。
愉しめたことは確かなのだけども、やっぱり「魔術王事件」のスケール感がないのは仕方ないか。次の「双面獸事件」は「魔術王事件」のボリュームでラビリンスの偏執ぶりをたっぷりと描いていただきたいものです。