メリケン呪怨第二彈。大石氏のノベライズとはいえ、基本的には例の家にやってきた連中がヒドい目にあうという結構で、大石ファンとしてはこの基本線に氏がどのような個性を乘せていくかというところが見所であったりする譯ですけど、今回は「THE JUON」以上に呪怨らしいというか、逆に言うと大石氏らしさはかなり薄め。
物語は件の家を放火したメリケン女性の妹のパートと、その事件の後、面白半分にあの家に忍び込んだメリケン女子高生、さらにシカゴのアパートの三つのパートが交互に進んでいきます。
日本人の、それもかつて木曜洋画劇場あたりでタイトルに「金髪」という文字を見つけてはグフグフと忍び笑いを洩らしてしまったオジサンあたりには、金髪女子高生のパートがやはり好みながら、ウブっ娘のイジメに盛り上がる彼女たちのアレっぷりは相当なもので、正直このイヤキャラゆえに素直に感情移入出来ないのがチと辛い。
パンツ丸見えなどのサービスショットが用意されているとはいえ、「あっ……あっ……あっ」と例によって例の呻き聲を發して伽椰子様が御登場、女はそこで死んでしまうという定番の展開がこうも續くと正直シンドイところもまたちょっとアレながら、シカゴのパートで、突然例の白い顔をした男の子がヌボーッと現れたり、両親が姉ばかりを可愛がるためにトラウマ女となってしまったメリケン娘が、伽椰子の故郷を訪ねていくパートで、癡呆老人が電車の中でアレしているシーンなどはやはり怖い。
本作の見所はやはり伽椰子の過去、それも結婚以前の幼少時代がかなり詳しく明かされるところにありまして、後半には彼女の母親までもが登場するのですけど、何となく超能力というか靈能力を絡めて彼女の過去が明かされていくところは「リング」の貞子とダブってしまうところがなきにしもあらず。
今までは結婚後の生活で凄慘な死を遂げた彼女が化けて出て行くという背景だけを開示してその正体不明な存在こそが伽椰子の恐怖の原泉であったところを考えると、このように彼女の生前が次第に明らかにされていくことで、得体の知れない故に怖かった伽椰子の存在がどのように変わっていくのか、今後はこのあたりに要注目でしょうか。
幼少時代の伽椰子の悲惨さとその因業はかなり辛く、大石氏がこのシリーズで描いてきた、誰にも愛されることのない存在というところが本作でも効果を上げているところが素晴らしく、かつてエピローグで子供を授かった彼女が静かな歡喜に浸る場面で幕となったのと同様、本作でも本編の陰慘さと対照的に、彼女のささやかな幸せが描かれる最後のシーンは秀逸です。
ちなみに定番の台詞でありますが、今回はかなり少なめ。男が「あわわわわっ……」を口にするという意外なところはあったりするのですけど、「ああっ」もほんのチョットだけだし、このあたりはちょっと不滿。
それでも前半、メリケン「呪怨」でこちらが期待している通りに、日本語がマッタク通じないと呆れる連中の描寫は冴えているし、メリケン「呪怨」では大きく前面に押し出されたコミュニケーションの断絶というところはシッカリと描かれているのでご心配なく。これが後半、伏線となって伽椰子の故郷を訪れていくところでは一つの怪異として提示されるところは見事です。
何か大石氏のあとがきを讀むと、氏はかなり伽椰子という女性に惚れ込んでいて、このノベライズが續く限り、また彼女の新たなエピソードが開陳されそうな予感もあります。過去が明かされたことによって、得体の知らない存在から、ある種の同情を得る悲惨な女性という存在へと姿を變えた彼女ではありますけど、この貞子的な転換が今後、このシリーズをどのように變えていくのかにも注目でしょうか。
正直、伽椰子が「あっ……あっ」と呻き聲をあげながらヌボーっと現れては女が悲鳴をあげて御臨終、というパターンの繰り返しがかなり辛くなってきているのも事實でありますから、伽椰子自身の因業を通奏低音にしてこのシリーズを引っ張っていくという「リング」の後半的な展開は大いにアリ。
もっとも説明の出来ない恐怖という、ホラーというよりは怪談に近いところで讀者を怖がらせていたこのシリーズの結構がこれによってやや趣を變えていくところが納得出來ないファンもいるかとは思うのですけど、個人的には大石ワールドの住人としてスッカリ馴染んでいる感もある伽椰子はこのノベライズのキャラとして、映畫とは微妙に区別されつつ、この大石「呪怨」が今後も續くことを期待していきたいと思います。