さて、そろそろ今年も残りあと二日ということで、今年リリースされた作品の中でもオススメの作品を纏めてみたいと思います。大勢のブログではこういうのでランキングを披露してみせる譯ですけど、去年の同趣旨のエントリでも書いた通り、何しろ自分は個々の作品の魅力を数値化して比較するみたいなことがまったく出來ないボンクラゆえ、順位付けなど無理な話。という譯でここでも自分が愉しめたオススメ作品をざっと並べてみせるだけで濟ませます。
今年のミステリといえば、まず島田御大の月刊島田荘司祭を挙げない譯にはいかないでしょう。いよいよリリースが開始された「島田荘司全集」も含めて多くの作品を愉しむことが出來た譯ですけど、敢えてその中から一作を選ぶとすれば、個人的には「溺れる人魚」でしょうか。
ミステリとして見れば「UFO大通り」を挙げるべきでしょうし、奇天烈トリックが炸裂する「犬坊里美の冒険」も捨てがたいものの、やはりキワモノマニアとしては、「ハリウッド・サーティフィケイト」のやり過ぎ振りには及ばないとはいえ、御大のエロ風味が短篇の中にギッチリと凝縮された表題作や、それぞれの短篇に人魚のモチーフを鏤めた趣向など、個人的な好みでいえばやはりこれ。來年も御大にはこの調子で日本の本格ミステリを引っ張っていっていただきたいと思いますよ。期待してます。
もう一人、今年のミステリ界で無視できない作家といえばやはり道尾秀介氏を挙げない譯にはいかない、ですよねえ。「向日葵の咲かない夏」でこの作者の素晴らしさを知り、「骸の爪」、「シャドウ」、「背の眼」と讀み進めていったのですけど、これまた個人的な好みでいえば「シャドウ」、でしょうか。秀逸なジャケのデザイン、そしてあらすじ紹介も含めた一册の本としての完成度は勿論のこと、物語の内容と仕掛けも當にツボ。そして「向日葵の咲かない夏」と讀み比べてみることで、よりいっそう本作の魅力が明らかになるという趣向もいい。
とはいえ「骸の爪」の、怪異と鏤められた伏線が後半に至って怒濤の如く回収されていく技のキレも捨てがたい譯で、「シャドウ」と「骸」のどちらがいいかと聞かれればこれはもう、完全に好みの問題ではないでしょうかねえ。
「骸の爪」に關していえば、樣々な怪異が發生しつつも、一体何が起きているのか、この物語の世界が明らかにされないまま後半まで突き進んでいく構成も素敵で、特に今年はコロシだの日常の謎だの、物語の中の「事件」を主要な謎として引っ張っていくというよりは、作品の世界そのものが大きな謎として物語を牽引していく作品が多いように感じられました。
その意味では、「骸の爪」と竝んで愉しく讀めたのが藤岡氏の「白菊」で、これまた後半に凄まじい勢いで物語の世界が明らかにされていく展開と、泡坂妻夫的な風格を添えた物語の雰圍氣も大滿足の一册でした。
もう一人、道尾氏と竝んで大期待の作家が蒼井上鷹氏で、「九杯目には早すぎる」から立て續けに新作がリリースされるのは嬉しいものの、「出られない五人」のトラウマからどうにも新作には期待半分、不安半分となってしまいます。個人的にはバラエティに富んだ作風と、ミステリだけではない、幅の広さを見せているという點で、オススメはやはり「二枚舌は極楽へ行く 」で決まりでしょう。
次作は是非とも双葉からリリースしていただきたいと思っているんですけど、ダメですかねえ。双葉は最近非常に注目している出版社で、蒼井氏の担当編集者が誰なのか氣になるところです。創元推理の桂島氏と同樣、彼或いは彼女がプロデュースした作品を追いかけていきたいと考えているんですけど、双葉社も光文社のカッパノベルズみたいに編集部がブログとかやってくれませんか。
眞相の奇天烈さという點では、三津田氏の「凶鳥の如き忌むもの」のニヤニヤ笑いが止まらないアレと小森氏の「魔夢十夜」がオススメでしょうか。三津田氏の二作はいずれも話題になった一方で、小森氏の「魔夢」の方がアンマリ評判になっていないような氣がするんですけど、どうなんでしょう。
個人的にはこの作品、暗號をはじめとした樣々な本格原理主義的なガジェットを凝らしつつも、その斬新にして奇天烈な眞相と、讀者を飽きさせない仕掛けの大盤振る舞いで非常に讀みどころも多い一作だと思います。本格原理主義的、復古主義的なところを志向しつつも、そこから一歩も二歩も突き拔けているところが非常に好みでありました。
もうひとつ、世間の評價がアレだけども自分的には非常に愉しめた作品といえば、やはり綾辻氏の「びっくり館の殺人」を挙げない譯にはいかない、ですよねえ。眞相がクダラナイ、とかネットでの評判も散々だった印象があるんですけど、楳図綾辻を敬愛する自分としてはもう、あのキ印爺の造詣や、ママが病院を脱走とか、そのあたりの楳図風味溢れるディテールだけでも大滿足の一册でした。
ただ、世間ではこういうふうには讀んでくれないんですよねえ、この作品を。まあ、自分は一介のキワモノマニアに過ぎませんから、本格ミステリファンとその評価が大きく異なってしまうのも致し方ない、といえばその通りなんですけど。
毎年安定して素晴らしい作品をリリースしている芦辺氏の中では、「千一夜の館の殺人」ではなく、敢えて「少年は探偵を夢見る―森江春策クロニクル」を。まあ、強力にオススメしたい作品はもうひとつあるんですけど、とりあえず今はミステリ作品ということで話を進めているので、「クロニクル」に話を絞りますと、まず連作短篇集にはやりすぎともいえる趣向を凝らさないと氣がすまないッ、という芦辺氏らしい仕掛けが最後に炸裂する構成は勿論のこと、一作一作に込められたトリックやハッチャケぶりが堪りません。
「一連の騒動を通じて、本格ミステリなるものが、私の中でにわかに色あせはしたものの」なんていっている芦辺氏ですけど、とりあえず件のクダラナイ騒動など無視して、芦辺氏には芦辺氏の本格ミステリを書き續けていってもらいたいと思いますよ。芦辺氏は斷じてボクら派に非ず、という譯で、電波野郎から奇妙なお誘いを受けようともそこは大人の対應で輕くスルーしていってもらいたい、と考えている芦辺ファンは自分だけでしょうかねえ。
幻想小説も交えて話を纏めたかったんですけど、何だか非常に長くなってしまいそうなので、エントリを二つに分けたいと思います。という譯で以下次號。