小粒。
創元推理文庫の殺意シリーズ第三彈となる本作、前二作に比較するとアレ系というよりはごくごく普通のミステリで、仕掛けの系統としては以前取り上げた「湯煙りの密室」に近いかんじですかねえ。普通のミステリとして見ればなかなかの出来榮えではないでしょうか。
物語はある人物が死体の第一発見者となるシーンを描いたプロローグから始まります。で、普通のミステリとはいえそこはアレ系の仕掛けで讀者を眩惑させずにはいられない作者のこと、ここにもシッカリとあの仕掛けを凝らしてあるというのは御約束でしょう。
で、この女性の死体は殘されていた遺書とともに自殺と断定されるものの、遺書に殘されていた内容にはその二日前に扼殺死体として発見された女子高生のことがほのめかされており、この事件との關連が疑われます。で、果たしてこの二つの事件には高校野球部の爭いがあって、……という話。
容疑者と思われていた人物が次々と殺されていくところなど、まさに「湯煙りの密室」と同樣の構成で、正直それほど大きな驚きはありませんでしたねえ。ただ犯人が仕掛けていたトリックはなかなかよく出來ていて、それが最後の最後でプロローグのシーンに結びつくに至って、アレ系にも通じる仕掛けが明かされるという趣向はやはりいい。
それとミステリとしての結構とは全然關係ないところで妙な雰囲気を釀しているところも本作の見所でありまして、例えば登場する高校野球チームの合い言葉が「相手は猫、おれたちは虎」って何だかかつての野球漫畫でも採用しえないようなベタなものだったり、決め技の名前がアクロバットシュートだったり、さらには高校でフォークダンスの練習をしていたり、殺された女子高生の服裝がコートにベレー帽だったり、ラブホテルで休憩している間に特上壽司の出前を注文したり、そのラブホテルの名前が「ベルサイユ」だったり、さらには高校ナインの練習風景がテレビに映し出されると若い女の事務員が「わあ、いい男お。最高ォ」と歓聲をあげたりと、とにかくおじいさんテイスト溢れる描写がところどころに光るところが堪りません。
まあ、そんな次第で、創推理文庫前二作の驚愕を期待すると肩すかしを食らってしまうので御注意の程を、といいつつ、上にも書いた通り普通のミステリとして過剩な期待をしなければそこそこは愉しめます。ただ自分の場合、ディテールは異なるものの、同じ系統の仕掛けを凝らした「湯煙」の方を讀んでしまっていたので、ちょっと、というかんじでありました。
今日は何だか風邪気味で頭痛がひどいので、簡單乍らこのへんで。