ジャケ見た時に「うわっ、これ、何かヤバいんじゃないの」と感じたのですけど、予感は當たってしまいました。何というか、稀釈された氷川透シリーズというかんじ。氷川氏に十八番の論理的な謎解きの部分も何か物足りない。もっと探偵役の各務原氏と語り部の彼とがあーでもないこーでもないとやってほしい。
氷川透シリーズとの大きな違いは、この語り部も推理が達者だということ。というか、この語り部の彼が色々と考えて、自分の推理を各務原氏に拝聴してもらい、各務原氏が「それでOK」といったあと、彼は犯人と対決、……という展開になっているんですけど、これが氷川透シリーズだと、「色々と考えるんだけど、結局的ハズレな推理をしてしまう」ヒロイン、というか女性と氷川探偵が対になってあーでもないこーでもないと議論する譯で、この部分が氷川氏の小説の愉しいところ。本作の場合、この部分がゴッソリと拔け落ちているので、何か讀後感はちょっと、……というかんじです。
それと高校生たちの会話も妙に違和感があって、これが氷川透シリーズだと会話も輕妙で笑える部分が多いのに、本作の場合「とても虚無的だと思う」とか「僥倖に頼る」とかどうにも今時の高校生が使いそうもない言葉遣いが散見されて、それがどうも氣になってしまいました。
本作には謎解きのほかにもちょっとした仕掛けがしてあって、作者はフェアプレイを期すためにか、登場人物覽に「重要な人物が一人だけ拔けていますのでご注意ください」と書いているんですけど、ダメですよ! こんなこと書いてあるから自分はかなり疑いながら讀み進めていって、結局仕掛けが分かってしまったじゃないですか! この注意書きがなければ最後に驚くことが出來たのに。
一応最新刊でもある「見えない人影」なんですけど、これも讀むべきでしょうか。これ、ジャケ見ると、本作よりヤバそうなんですよ。嗚呼、早く祐天寺美帆の新作が出ないものか。