「赫い月照」を讀んでいて思い出していたのが、山田正紀の諸作で、「妖鳥」「螺旋」といった幻冬舍から出ている作品と、この「神曲法廷」でした。どれを取り上げても良かったのですけど、三つの作品のなかで一番整然とまとまっている本作をとりあえず。
山田正紀の作風と似ているんですよね。小さいトリックや謎をどんどん積み重ねっていって、結局すっごくいびつな世界をつくりあげてしまうというところがそれで、「赫い月照」に対する批判でも多いのが、トリックがセコい、というもので、まあそれは確かにそのとおり。でもそういうものをどんどん積み重ねていくと、トンデもない作品になってしまう、という良いお手本が本作。
本作も格別奇妙な世界觀が提示される譯でもなく、現実世界には違いないのだけども(「ミステリオペラより全然まともな世界)、何だか登場人物がどこかしら壞れていて、その違和感が提示される謎とともにどんどんと深まっていくところがキモであります。
特に本作の場合、章(歌)の要所要所に「それでは開廷します。」「被告人は前に出なさい。」というようなかんじで、判決文の斷片が挿入されているのだけども、それが歪みまくっていて氣味惡い。またこの判決文の眞相が最後にあきらかになるのだけども、これも怖い。ダンテの「新曲」といわれてもいまひとつピンとこなくても大丈夫。ネジの外れた登場人物たちの狂氣と歪んだ事件の謎解きを十二分に堪能出來ます。おすすめ。