ジャケ帶に「エラリー・クイーンの頭脳を持つ少年と美少女の知能が火花を散らす」とある通りに、あらすじを簡単に纏めると、犯罪の天才少女から推理の才を見いだされたボーイが「探偵」へと成長する物語。しかしクイーンの名前を出してもそこは芦辺氏でありますから、第一の殺人ではロジックでコトの眞相を暴いてみせた件のボーイが次第に策謀を凝らした事件へと卷きこまれていく展開は完全にレトロ探偵小説のソレ。
からくり趣味や麗しき美少女との妖しい關係などから当然イメージされる乱歩三島のアレをさりげなく引用してみせるところなど、マニアへのくすぐりもテンコモリで個人的にはかなり愉しむことが出来ました。
ただ、ノッケからジャケ帶やあらすじで探偵ボーイと美少女の對決をバラしてしまったのはチと殘念で、第一の殺人の謎解きをして見せたボーイが「ロジックよりトリック」みたいなことを主張するダチに誘われてますます事件の深みに嵌っていくあたりまでは、美少女の存在もやや謎めいた存在として描かれているのみで、件の美少女の正体が明かされるところで三島のアノの戲曲からの引用が添えられいよいよ物語が盛り上がってくるという外連味溢れる本作の構成を考えると、――ここはボーイVS美少女という圖式は秘密にしておいた方が件のシーンでも盛り上がれたような気がするのですが如何でしょう。
第一の殺人に關しては、開かれた密室のような状況で男のコロシが發生するというシンプルな事件の樣態に、目撃証言から生じる矛盾をロジックによって解き明かすという、ジャケ帶にもある通りのクイーン式推理で魅せてくれる譯ですけども、個人的にはこのロジックによって導き出された「眞相」に「トリック」を持ち出してダメ出しをしてみせるダチの怪しい振る舞いがいい。ロジックよりトリック、といかにもレトロ探偵小説趣味的なところをチラつかせながらその實、……という展開にはニヤニヤしてしまうこと請け合いで、さらにはそこへ探偵趣味溢れる操りを添えつつ、妖しい美少女の正体が次第に明らかにされていくという結構です。
しかし第一の殺人の頃にはフツーにモジモジしていたボーイが事件を重ねていくことで大人っぽく、洒落っ気のある男へと変貌を遂げていくところも本作の見所のひとつでありまして、クイーンっぽい探偵の造詣から、敵方である美少女の正体が明らかにされていくにつれ、その姿がホームズ、明智へと見事な「成長」を見せていくところに芦辺氏なりの探偵小説へのこだわりが見られるところも素晴らしい。
最後の大犯罪がハジけるところではからくり趣味も交えてボーイ危機一髮のシーンで盛り上げつつ、「成長」したボーイがまだガキの癖をして、どう考えてもフツーの格好ではないアングラ劇フウの衣裝で登場した美少女に對して、こちらも「そうだ、月蝕姫とお呼びしよう!」という、これまた舞臺劇フウの台詞で合わせてみせるところにはチと苦笑い。
それでもめイッパイにレトロな探偵小説趣味を凝らした物語は見事で、特に上にも述べた通りに、クイーンっぽい探偵像から次第にレトロ探偵的な造詣へと「回歸」しながら探偵としての「成長」を見せていく主人公であり語り手でもあるボーイのキャラ立ちは秀逸です。
それとミステリーYA!シリーズならではの美しい装丁も含めて、大切にしたい一冊で、芦辺氏ならではの「探偵小説」へのこだわりぶりを堪能したい方にオススメしたいと思います。