ホラーというよりは怪談に近い、引き算の技法を驅使した作品で、なかなか愉しめました。物語は、小学生の僕の視点から叔母さん家での恐ろしい体驗を淡々と語る、――というものなのですけど、ノッケから叔母さんも含めた家族の態度が明らかに異樣で、さらには家には異臭が立ちこめているからさア大變。
何かあったんだろうということを匂わせつつ、そこへ祖母の不審死を絡めて物語に誤導を凝らした技巧は秀逸で、その家の秘密の内容を朧氣にチラつかせながら、讀者におぞましいイメージを喚起させる展開のイヤっぽさが本作のキモでしょう。
やがて語り手は家のそこここに隠されている死体の断片を見つけ出し、姿を見せない紗央里ちゃんにトンデもないことがあったのではと危惧するのですけど、ここにさりげない誤導を凝らして後半にさらりとそのあたりで眞相を明かしてみせるところはやや意外、ごくごくフツーの怖い話で終わるかと思っていたので單純に驚いてしまいました。
本作では引き算の技法とともに、語り手と叔母さん一家、さらには電話で話をする姉や警察への通報など、會話のことごとくを無化してしまう展開が際だっていて、そのあたりから果たしてこのお話はリアリズムを基調にしたものなのか、それとも不条理世界のシュールな物語に過ぎないのかを曖昧にしながら、讀者の予想をはぐらかしてみせるところにも大きな個性が感じられます。だたその一方、こうした書き方は書き流しているようにも見えてしまう譯で、このあたりがあせごのまん氏や北野勇作氏のように技巧によって不条理な世界を現出させる作家と異なるところ、でしょうか。
後半に到るとそうした不条理な描写からグロっぽい描写を含めて物語はホラーへと傾斜していくのですけど、このあたりもまた平山氏のようにグロテスクななかにも何かがある風格とは大きく異なり、不条理からホラーへの転調がかえって素っ気なく感じられるしまうところがチと惜しい、と個人的には思いました。
それでも冒頭から誤導のネタが明かされるまでの、異常といえるほどのイヤ感はこの作品の放つ魅力でもあり、正直、これだけのイヤーな雰囲気を持続したまま物語を最後の最後まで引っ張っていく力量は普通ではありません。ただこうした力が技巧によるものではなく、若書きから來る「勢い」だけに感じられてしまうのもまた事実で、個人的には次作で作者の真の才能が明らかにされるのではないかな、という氣がします。
怖いというよりはイヤ感をタップリと堪能したいという奇特なホラーマニアにオススメする一方、引き算の技法によって支えられたイヤ感は怪談ジャンキーにも受け入れられるのではないでしょうか。