ジャケ帶の惹句は「たたみかける恐怖、仕掛けられた伏線の数々。三津田マジック、ここにあり!」。確かに伏線もあって、マジックもあるのですけど、この眞相が何というか「十三の呪 死相学探偵」にも通じるような、脱力を誘うこじつけぶりでありまして、これがまた自分のようなキワモノマニアにはタマりません。
物語はおマセな小学生の一家がとある家に越してくるや、奇妙なことが起こり始めて、――という家ものホラーの定番を忠実にトレースした結構ながら、まずもって主人公である小学生ボーイのおマセぶりが明らかに異常。冒頭、東京駅から新幹線に乗り込んだボーイがひとりごつ台詞が、
未知なる地に向かって、自分は進んでいる――。
四年生にして末は詩人が哲学者か、とでもいわんばかりの大人っぽい件のボーイはいわゆる「見える」人で、件の家に入るやイヤーな雰囲気をビンビンに感じるものの、その正体が判然としない。そんな中、ボーイの妹はその家に「いる」ものと山から「やってくる」ものとお話が出來るらしく、妹が口にする奇妙なキーワードを頼りに知り合ったジモティとともにこの家の秘密を探っていくのだが……。
ベランダにヌボーっと立っている黒い影のような、いかにもホラー・ジャパネスクな怪異の造詣は素晴らしく、三津田ホラーの雰囲気はイッパイながら、中盤、キ印婆の受難を体驗したあたりからどうにも話が妙な方向へと突っ走っていきます。
ゴミ屋敷に棲む件の婆の部屋から盜みだした日記の内容が斷片的に語られていき、その家で過去何があったのかが讀者の前に明らかにされていくのですけど、そうした過去の逸話は子供視點から描かれた拙い表現も相まって怖さは十分、しかしその一方、リアルにボーイが体驗する恐怖の出来事がどうにも漫画的というか、ホラーとして「ここも」怖がるべきなのか笑うべきなのか戸惑ってしまいます。
エロ女が蛇女へと化身するところなどは楳図センセみたいなかんじで怖さと笑いの境界線スレスレの展開を見せていくものの、最後に明らかにされる真相は上にも述べた通り、「十三の呪」を彷彿とさせる脱骨ぶりで、これまたクラニー流というか、ヘンテコな暗号ネタも添えて拗くれた伏線とロジックを大開陳、そしてさらにその後、主人公のボーイを襲い来る怪異の正体には完全に頭を抱えてしまいます。
何というか、楳図センセの漫画だと思って讀んでいたら、いよいよクライマックスで児嶋都孃の漫画にすり替わっていたような驚き、とでもいうか――。蛇女のシーンなどはまだ楳図センセらしき恐怖の雰囲気が感じられるものの、最後に件の怪異がウワッとボーイを襲ってくるシーンはというと、……センセ、ここは笑うところなんですよね? と思わずジャケ裏の著者近影を見返して白シャツにジーパンの三津田氏に語りかけてしまいたくなってしまいます。
とはいえもう少し冷静に考えると、この怪異からの「問いかけ」は、楳図センセの「おろち」の中でも、ボーイたちがザッザッと隊列を組んでやってくるや爺さんの体をバラバラにしてしまう強烈なエピソードが印象的なアレの終盤の場面を彷彿とさせるし、……と考えてはみたものの、やっぱりここは笑うところとしか思えません(苦笑)。
三津田氏の「十三の呪」や本作を讀むと、ようやく日本のホラーはクラニーに追いついてきたんだなア、と妙なところに感心してしまうのでありました。フツーの讀者であれば怖さを求めて讀み始めたものの最後にはクラニー流のヘンテコな伏線と暗号で魂を抜かれてしまう可能性がなきにしもあらず、なので、光文社文庫の「禍家」の系譜に属するような印象を抱いてはしまうものの、ネタ的には完全に「十三の呪」の方ゆえ、怖さよりもゴミ屋敷の婆さんや蛇女の造詣をニヤニヤしながら愉しむのが吉、でしょう。