ジャケ帯に「少年たちの黒い青春」とある通りに、「おだやか」というタイトルとは裏腹に、とにかく、黒、黒、黒、と少年たちの真っ黒な日常を綴った短編がテンコモリの一冊です。
また「他言無用のドンデン返し」とあるものの、このドンデン返しもミステリ的な技法によってひっくり返すというよりは、物語のブラックなオチをより際立たせるために作用しているところが面白く、特に後半に至るにつれこの黒さがより激しくなっていくところも見所でしょう。
収録作は、不倫現場を目撃してしまったばかりに偏執的なオバはんにストーキングされてしまう少年の受難を描いた「言いません」、硝子強迫症のトラウマ娘にロックオンされてしまったボーイの運命「ガラス」、エロい気持ちを抱いたばかりに変態姉弟のトンデモな遊びに巻き込まれてしまった少年の末路「罰ゲーム」、道に迷った二人が出逢った譯アリカップルの正体は「ヒッチハイク」、催眠術にかけられたボーイの狂氣が爆発する「かかってる?」、美人姉さんの婚約者の正体を巡って黒いオチが見事に決まる「嘘だろ」、窃盗ボーイを詰問する隠微な先生カップルが悪魔に魅入られてしまう「言いなさい」の全七編。
冒頭の「言いません」は、友人の母親がホテルから出てきたところを目撃してしまったばかりに、件のオバはんにストーキングされてしまうという物語で、不倫がバレるんじゃないかと不安がるオバはんの行為が、ボーイの戸惑いとは裏腹に次第にエスカレートしていくというおぞましさがナイス。
「ガラス」は、最近艶っぽくなってきた娘っ子からトンデモなカミング・アウトをされたばかりに、ボーイが狂氣の世界へと取り込まれていく課程が興味深く、どうにか娘の狂氣を交わそう交わそうと努めるものの、最後には、――という話。
ここではオチもある意味予想通り、といえるものながら、「罰ゲーム」あたりからはいよいよ黒い幕引きが冴えてきます。友達の家を訪ねていくと皮肉屋の姉さんがいて、その姉さんの提案で何やら意味アリなゲームを皆でやることに。ボーイは友人の助言も無視して、このゲームへ参画するも、実は友人とこの姉さんが恐るべき姉弟であったことが明らかになって、――という話。まさかこれほどに黒い落とし方をするとは予想外だったのでチと吃驚ですよ。
續く「ヒッチハイク」は、受難に巻き込まれたボーイの珍道中が最後に爽快にしてブラックなオチを明らかにするという素晴らしい結構で纏められ、ジャケ帯にもあるような「ドンデン返し」の冴えを堪能することが出來る逸品です。
道に迷ったボーイ二人が、ヒッチハイクを敢行するものの、乗せてもらった車には何やら意味ありげなカップルが乗っていて、――というところから次第にこのカップルのトンデモぶりが明らかにされていくという物語ながら、「罰ゲーム」のような受難オチを予想していると、マッタク意想外の落とし方で愕然とさせてくれます。
また最後のオチがドンデン返しとして効いているという點では、「嘘だろ」も「ヒッチハイク」に劣らず秀逸で、自慢の姉貴のフィアンセがどうやらスカート切り裂き魔なのでは、という思いにとらわれてしまったボーイがそのことをコッソリ姉さんに伝えるものの、婚約者が家を訪ねてきて、――という話。これまた「ヒッチハイク」と同様、本当にヤバいのは實はという顛倒が最後に明らかにされ、それが黒すぎる幕引きへと見事に決まる構成が素晴らしい。
「言いなさい」も、ある展開がリフレインされる構成が見事な味を出している一編で、クラスの子の金を盗んだとおぼしきボーイが先生二人に詰問されるシーンからスタート。果たして本当にボーイは金を盗んだのか、その事態を曖昧にしたまま物語が展開していくところがうまい。さらに他の収録作とは異なり、ことさらにボーイの心情を描写せずに、やや突き放したかたちで件の事態を描いていくという戦略によって最後の黒いオチを盛り上げていくところもいい。
ジャケ畫と話の内容のギャップに頭を抱えてしまうものの、少年を主人公に据えたイヤ話、黒い話としては相當に濃度が高く、自分のようなキワモノ的な視點からも、彼らの受難を愉しむことが出來るという一冊です。オススメ、でしょう。