連休開始早々、三十九度の高熱でブッ倒れて救急センターのお世話にもなったりと、昨日までは殆ど半死の状態で本を讀むことも出來なかったというテイタラクでありますから、魅力的な新刊本を取り上げる氣力も今のところありません、――という譯で、とりあえず今日は古本屋でゲットした草野本から片付けていこうと思います。
あどけない微笑みボーイにパラボラアンテナをあしらった、何だかSFみたいなジャケなんですけど、内容の方はジャケ裏にもある通りの「サスペンス・ミステリー」。草野ミステリに極上のキワモノテイストを求めてしまうマニアにはチと趣向が異なるものの、サスペンスの結構に樣々な本格の技巧を凝らした作品で、終盤に明かされるその仕掛けには唖然呆然、個人的にはかなり愉しめました。
物語は、萬年筆會社社長の息子が誘拐され、犯人が身代金をチャンと渡さないとガキを爆殺すると宣言する一方、警察はこれを單純な営利誘拐とは異なるものと見て、社内の確執と社長に個人的な恨みのある者の犯行と推理、果たして子供は助かるのか、――という話。
本作では、この実行犯に窓際の爆弾マニアを据えて、野郎の犯行を目撃していた影の人物が彼を脅迫して誘拐の実行を強要する、というところがミソ。爆弾マニアは一方的にこの人物から行動を指示されるばかりで、女を仲間に引き入れるものの、これがまた豫想外の展開へと轉がっていく展開もスリリング。
この爆弾マニアの視點から実際の犯行を描きつつも、坊主を誘拐されてしまった萬年筆會社の側からの当惑ぶり、社長の過去や會社の確執も交えて、その曰くを辿っていく警察のシーンなどを平行して展開させているところが秀逸で、特に警察のパートを後半で炸裂する見事な騙しへと繋げているところが素晴らしい。
ミスディレクションにレッドヘリングと本格ミステリでは定番の技巧を、サスペンスの結構にすっかりと覆い隱してしまっているところは大いに評價されるべきで、特に実行犯である爆弾マニアが不慮の死を遂げてからの流れがいい。
彼が殘した死に際の伝言を元に、子供が軟禁されている場所を探していく警察と會社の連中の行動をスリリングに描いていくところにも、實はシッカリと本筋での仕掛けを隱蔽する技巧が凝らされてい、「鶯谷」という爆弾マニアが口にした言葉に翻弄される警察連中の行動が最後にはまったく別の意味をもって迫ってくるところなど、サスペンスとしての趣向が眞相開示の後になってはじめて犯人の奸計と密接に關わっていたことが明らかにされる構成は見事です。
爆弾マニアと共犯者となったアバズレ女との輕妙なやりとりなど、中盤までの草野ミステリらしいユーモアも愉しいものながら、この間に描寫される坊主のキャラの不気味さは捨てがたく、ジャケ画とのギャップがまた何ともいえないキワモノのスメルを發しているところなど、細かいところにも氣配りの行き屆いた一冊といえるのではないでしょうか。ダメミスの大傑作にしてキワモノミステリの至宝「アイウエオ殺人事件」とはまた違った意味で、これは思わぬ掘り出し物でありました。