遅ればせながら手に取ってみました。中心にはド派手なネタをブチ込みながらも大長編で引っ張るのではなく、寧ろさらりと讀ませる長さに纏めているのも好印象で、個人的には堪能しました。
冴えない楽団員が東京ジャック、という話の筋は何となく知っていたものの、楽団の運営もままならない連中がいったいどうやって東京ジャックを行うのか、またその動機はというあたりが讀む前からの疑問だったのですけども、當然これだけの大博打をドジな輩どもが群れ集って画策出來る筈もありません。
狡猾でありながらある種のチンケささえ感じさせる詐欺で細々と食いつないでいた楽団員たちの前に謎女が登場、彼女はその真意も語らずに東京ジャックという大それた計画に楽団員を引きずり込んで、……という話。
警察組織の暗躍に、さらには社會の黒幕みたいな大御所を配して、計画が発動するまでの裏舞台をさりげなく描きつつ、じわじわと場を盛り上げていく展開も流石で、やや昔の小説ゆえか、第二楽章の一節二節の終わりに添えた、引っ張り方のあからさまぶりが大變微笑ましいところもツボでした。
謎女の正体に關してはドンピシャに予想通りだったものの、この正体が明かされることをフックにして、件の東京ジャックの目的がある一面からもう一つの面へと反轉して明らかにされていくさまが素晴らしく、後半にド派手なドンパチこそないものの、このあたりの仕掛けを愉しむのもアリでしょう。
実際、この東京ジャックの目的と動機に關してはトンデモともいえるものながら、見事に計画を完遂した刹那に、首謀者がその目的を果たす場面の詩的な美しさは印象的で、個人的にはこのシーンとその後に續くダメ男とワルとの「死力をつくして戦」う場面のアッサリぶりとの対比には口ポカン。エピローグもこれまた定番ながら、ハッピーエンドの中である脇役に託して計画を回想させる場面のひねりぶりもいい、という譯で、繰り返しになりますが、ネタ的にはド派手ながら決してアクション映画顔負けのド派手なドンパチが繰り広げられる譯ではないところが「第四の敵」っぽいのですけど、それでも計画の発動を追いかけていく展開とその背後に凝らした仕掛けが愉しい佳作、といえるのではないでしょうか。