という譯でここ最近はミステリーYA!シリーズを買いまくっておりまして、今日もその中の一冊「満ち潮の夜、彼女は」を取り上げてみたいと思うんですけど、あらすじを簡単に纏めると、舞台は全寮制の女子校で、帰省もせずに居残ることになった夏休み、不思議少女の突然の来訪から不可解な殺人事件が発生し、――というお話です。
登場人物たちの造詣が明解で、優等生なんだけど微妙に自分に自信がない娘っ子やプログレ好きのショートカット、さらには茶髪の謎娘など、物語の開幕から死にフラグが立っていることがバレバレな少女たちを除けば、このほかにも鞭を振り回しては娘っ子をイジメまくるヒステリーのオバさん教師や、女の花園でいい人ぶっているワル男など、キャラ立ちした登場人物たちがこの謎めいた物語を牽引していきます。
殺された状況も含めた様々な要因から、この犯人の正体はホラーでは定番のアレなんじゃア、とまず普通の讀者は期待してしまう譯ですけども、あくまでこのあたりは仄めかしにとどめたまま、後半部までこのネタはおあずけです。
見事だと思ったのは前半と後半の視點の切り替えで、前半は基本的に優等生でリーダーの娘っ子の視點から物語が語られ、彼女と不思議少女との百合っぽい關係を軸に、不可解な殺人事件の謎も添えて物語は進みます。
その一方、コロシが大発生して、殆ど容疑者らしき人物が残っていないという状況が展開される後半部では、ボーイッシュ娘が探偵役となって、この殺人事件の謎と不思議娘の正体を追いかけていくことになるのですけど、前半に添えられた微妙にエロっぽい百合風味が後半では戀愛三角形を形成しつつ、ホラー的な例のネタを明らかにしていく構成は秀逸です。
前半は、この優等生のどうにもハッキリしない性格もあって、怪異を仄めかしたコロシの眞相も判然とせず、これだけの人が死んでいるというのに大きな起伏もなく物語が語られくところは好みが分かれるかもしれません。コロシだコロシだと登場人物が大騒ぎを演じる黄金期リスペクトの本格推理小説に比較すると、本作の風格はやはりファンタジーというか幻想小説やホラーに近く、静謐さを讃えながらも、オジさん的にはストライクゾーンを狙ったとしか思えない百合風味が神秘的な雰囲気を醸し出しているところも好印象。
かといってホラー、幻想小説的な風格のまま終わりとなる譯ではないところにも注目で、不思議娘の正体で讀者が大期待していた例のネタが明らかにされると、とある人物の遺書が発見されるに至って物語は俄然ミステリへと転がっていきます。
例のネタに絡めて怪異のシステムが明らかにされ、さらにはコロシの現場で発見されたあるものから不思議少女の正体が語られたりといった仕掛けは小技ながらなかなかのキレを見せ、この中では特にドールハウスと死にフラグのたっていた娘っ子への囁き言葉の眞意が明らかにされるところは素晴らしいと思いました。
全編を占める夏休みの情景の後、とある登場人物を軸にした冬の出来事が後日談的なかたちで語られるのですけど、個人的にはこの物語は「夜」の前で終わってほしかったなア、という氣がします。その方が本作で前半、後半を分けるかたで語られた百合型の恋愛三角形のテーマがもっとハッキリとした余韻を残せたと思うのですが如何でしょう、ってこれはまア、自分が優等生の娘っ子よりもボーイッシュ娘の視點で物語を讀んでいたのでそう感じるだけカモしれません(爆)。
何だか讀んでいる間は「1999年の夏休み」とかが頭にあって、不良少女といいつつ「それマジヤバくね?」みたいな最近の若者言葉を退ける一方、品位を讃えた少女たちの造詣を際だたせてみせるところなど、何というか二昔前の少女漫畫をイメージさせる風格で、さらにはボーイッシュ娘が聴いている音楽がプログレだったりと、かなりオジさんテイストを感じさせるところもあったりしたものですから、若い作者にしては……なんて思って作者の名前でググってみると、何と自分よりも年上のオジさんだったから吃驚というか大納得。
本作の静謐にして神秘的な雰囲気から、もう少し若くて、どちらかというと細面の男性の印象を作者には期待していたのでアレなんですけど、ミステリーYA!のサイトで「となりのウチナーンチュ」を連載している作者のポートレイトがフー・マンチューというのはいかがなものか、……ってこれは物語とは全然關係ありませんか(爆)。
本作もまた自分のような中年オヤジが偏愛したくなる一冊で、ホラーでは定番のアレネタにミステリらしい仕掛けを凝らしたところや、前後半で視點を使い分けて百合型の三角關係を描き出してみせるところなど、作者の旨さを堪能したい作品といえるのではないでしょうか。