一應この前のエントリに書いておいた通り、綾辻氏のインタビュー記事を取り上げます。記事の構成としては、「新本格的開基者」(新本格の開基者)と題して、1978年の「十角館の殺人」からのキャリアと、新本格が生まれた背景について島崎御大の意見なども交えた解説をくわえています。
日本のミステリファン的にはまア、何度も目にしたような内容なのでこのあたりは割愛するとして、次ページからは三頁にわたって野葡萄による綾辻氏へのインタビューが掲載されています。ただ、実際にはページの上の方には綾辻氏の寫眞が掲載されているので、内容自体は二頁強といったところでしょうか。
以下、その内容を輕く日本語にしてみました。尚、綾辻氏の一人稱は「私」では何だかシックリこないんで、今回は「僕」にしてあります。まあ、内容の方はあくまで台湾のミステリファン向けでありますゆえ、内容はそれほどディープではありません。あまり期待しないように御願いしますよ。
九月末の訪台が二回目となる綾辻氏はその日、全身を黒のスーツに赤いコンバースのスニーカー、そこへ淡い色のサングラスという出で立ちながら目立ち過ぎた印象はない。綾辻行人氏曰く、彼は本當に赤色が好きで、オリジナルなものを愛するとのこと。彼の筆名である綾辻の「辻」の字は日本の漢字とは異なるものの、それでも二つの點のある日本文字にした理由は簡單、何故ならそちらの方がより特別だからである。
野「あなたの書くミステリはサスペンスあり、刺激ありで、讀者を一時たりとも飽きさせない譯ですが、こういう作品に仕上げる何か祕訣みたいなものはありますか?」
綾「僕にとってインスピレーションの原泉というはのたくさんあって、子供時代の經驗というのがまずありますね。いや、それは本當の体驗というよりは、恐怖とか、驚きとか、そういう一種の感覺といった方がいいかもしれない。
そういう心の奧に深い印象を残している感覺ですね。そういったものが時を經て小説を書く上での貴重な寶物となっています。例えば館シリーズでいうと、空間に閉じこめられた時の閉塞感みたいなものを使ったのが、『十角館の殺人』や『迷路館の殺人』ですね。それに加えてこのシリーズでは物語を館に限定することで、讀者にもスリルを味わってもらおうと」
野「あなたはホラー小説が大好きですよね。『都市傳説』とか、例えば日本で流行した『神祕の十三階』とか。こういったテーマは面白いと感じますか?」
綾「うーん。ホラー映畫は大好きですよ。都市傳説とかこういったテーマも面白いと思います。僕はとにかく神祕的なものが好きなんですね。それでも讀者の方に『眼球綺譚』みたいな小説を書く時には、自分でああいったゲテモノ料理を食べたりするんですか、なんて聞かれたことがあるんですけど(笑)、自分では食べませんね。編集者が薦めてくれたりしたんですけど、想像するだけで充分です」
野「館シリーズでは秘密の仕掛けやその建物の構造がひとつのテーマになっていますよね。これについて何か難しかったことなどがありましたらお聞かせ下さい」
綾「僕がこういうものを書くとき、その狙いとしてはまずスリルを盛り上げていこうというのがあります。それはつまり部屋にはしっかりと鍵が施されていて、窓には内側からも鍵がかけられているような、所謂傳統的な密室とは違う。こういう空間の中で登場人物達を自由に動かして事件を起こさせるのですけど、ここでもっとも難しいのは、閉塞された空間の中に神祕的な部分とエンタメ的な部分をうまく融合させるというところで、「水車館の殺人」ではどのようなトリックでこれを実現させるかに腐心しました」
野「館の構造などに關して何か特別な研究をされたとかは?」
綾「それについては僕の妻――小野不由美の父が建築事務所を経営している關係で、建築のことに關しては妻の助けによるところが大きいですね。(*)」
野「あなたの小説で嵐の山荘がよく小説の舞台となるのは何故でしょう。『時計館の殺人』や『霧越邸』でもこのような舞台が登場しました」
綾「それはサスペンスを盛り上げる為のひとつ手法ですね。暴風雨や吹雪によって人は閉塞感や逃れることのない壓迫感を感じることになるわけで、館シリーズでもこういったところを讀者に傳えたいという企圖は同じです」
野「『フリークス』はミ推理小説の風格とは異なりますが、これを執筆された當事、精神病院を舞台にしようと思った意図は何だったのでしょう」
綾「精神病院のようなテーマに僕は非常に興味があるんですね。人の精神というのは非常に奧深いものでしょう。當初、この作品を書き始めた時は本當に辛かったんですけど、それは自分にとっては挑戦でもあり、それがまたひとつの愉しみでもあるんです。自分にとっていくつかの作品はそうやって自分の力を振り絞った結果と生まれた作品であって、『人形館の殺人』もそうだし、『暗黒館の殺人』、『フリークス』などはそうです。
野「『フリークス』を執筆している時はどのような心境だったのでしょう?作品を書き終えたあと、この作品世界から拔け出すのに苦労されたとかそのようなことはありませんでしたか」
綾「僕はその點に關してあまり深入りしないよう自分に言い聞かせているんです。こう、外からものを見るようにしようと。この作品の舞台は精神病ということもあって、僕としては途切れることなく自分の心を氣遣いながら書いていましたね。くわえて自分はミステリ作家ということもあって心や精神のほとんどを内面に置くことに費やしています。讀者の方にも小説を讀まれる時にはおなじような心持ちで挑んでくださると嬉しいですね。
(*)このあと、「十角館の殺人」が書かれたときのいきさつがちらっと書かれているものの、意味が判然としません。小野氏がそのときに話した言葉が述べられているんですけど、日本語ではちょっと意味が違うような氣がします。
尚、インタビューが掲載されている紙面をスキャンした畫像がこれとこれになります。
ちょっと長くなったので續きはまた次のエントリで。とりあえずこれで半分くらいです。インタビューの内容ですけど、館シリーズの構想や例の圖面の作成などに關して、小野氏と彼女の父上によるところが大きい、というのは、島崎御大と既晴氏の鼎談でも言及されていた内容です。ホラー映畫好きは、日本の綾辻ファンにとってはいわば常識でありますが、「眼球綺譚」に絡んで、ゲテモノ料理を食べたことがあるのか、と質問した讀者がいたというのは初耳でした。まあ、虫とか食べてるのならまだいいですけど、最後に出てくる「アレ」は流石に普通の人は食べられないでしょう(爆)。という譯で以下次號。
[11/09/06: 追記]
綾辻行人データベースAyalistのmihoroさんによると、この記事にある赤いスニーカーはコンバースではなくて、リーガルではないか、とのことです。また氏の筆名の「辻」についても島田御大が姓名判断の畫数から判断してそのようにした筈で、このあたりの事実関係を考慮しつつ上の記事を讀んでいただければと。