「トランプ殺人事件」を取り上げたので、ゲーム三部作を遡るようなかたちで、シリーズ二作目となる本作を。
これも「トランプ」と同樣、現在は創元推理文庫版が手に入りやすいと思います。自分が持っているのは、角川版で當事はブ厚い、重いの「定本ゲーム殺人事件」にしか収録されていなった本作が角川から文庫で出た時にはすぐに購入したのですが、讀後感は正直あまりよくありませんでした。で、今日、再び讀み返してみたのですが、……すいません、やはり十年を経た今讀んでみても感想はあんまり變わりありませんでした。
そもそもこの作品はまさに作者の過渡期にあたる作品でして、「失楽」で衝撃のデビューを果たしたのち、ゲーム三部作の一作目「將棋」「圍碁」で「失楽」のような作風から離れて普通のミステリをものにした後、再び混沌とした「トランプ殺人事件」に至るまでの経過報告のような色が濃く、混沌とした雰圍氣をひとつの物語に纏めきることが出來ていないような印象を受けてしまうのですよ。
六本木界隈で流行している「恐怖の問題」という都市伝説、そしてその内容を暗示するようなかたちで見つかった二つの死体。さらにある作者を騙って雜誌社に送りつけられてきた詰將棋。電車に轢かれて亡くなった女性、……これらを繋ぐものは何なのか、というのが主題なのですが、物語は発見された二つの死体よりも、「恐怖の問題」という都市伝説はどのようにしてつくられ、擴がっていったのか、その謎を探る過程に力點が置かれています。そして後半に至って、不可解な都市伝説と詰將棋の謎がひとつに収斂していくのですが、このあたりがちょっと驅け足で、今ひとつカタルシスを感じることが出來ずに終わってしまいました。
探偵たちは犯人を突き止め、その犯人と対峙して或る行爲に及ぶのですが、今讀んでみると、この動機というかネタはちょっと陳腐ですよねえ。
ただ、そこは竹本健治ですから、樣々な小説的手法を用いて、謎めいた雰圍氣をつくりだす力業は見事です。情景描写にしても、何日も降り續く雪や暗澹とした空の色などを執拗に描写して、世界がずれていく樣を巧みに表現しています。今少しそれぞれの素材を丁寧に纏めてくれていれば、佳作にはなったと思うのですが、「トランプ殺人事件」と比べてしまうとやはりどうしても見劣りしてしまうんですよねえ。
それでも、牧場智久、典子、須堂、天野といったシリーズの登場人物を把握して、作者が「トランプ」に仕掛けたアンチ・ミステリ的な結末を十二分に堪能したい方にはマストでしょう。