組織内部の確執を背景に、連続殺人魔を追いかける刑事たちの活躍を暗いタッチで描き出した、どちらかというと本格というよりはサスペンスの基調の色濃い一冊でした。何となく「慟哭」っぽい仕掛けを期待してしまったのですが、そうした驚きよりは、寧ろ事件の構図が最後に描き出す男の悲哀に焦点をあてた風格で、犯人当てや連続殺人魔の正体などを「推理」しながら読んでいくとやや呆気ない真相に拍子抜けしてしまうカモしれません、――というか「慟哭」っぽい驚きを期待して讀み進めてしまった自分がそうだったわけですが。
コロシの後に指を切り取っていくという猟奇趣味溢れる変態君がネットやトバシの携帯を駆使して警察を翻弄するという事件の流れはややありきたりながら、そうした定番フウの展開は大きく前面には押し出さず、事件の捜査を担当することになった刑事たちの暗い内面と組織の確執を際立たせた結構が秀逸です。
最初のうちは、複数人の刑事を順々に描きながら、組織内部のイザコザからダークな展開へと進んでいくのかと思いきや、連続殺人犯がネットでの暗躍を重ねるうち、中盤以降から物語はある一人の刑事へと焦点が絞られていきます。
そうなると当然、読者の視点もこの刑事の主観と重なり、いわばこの刑事の視点から事件を俯瞰していくことになります。で、とある陰謀にハメられ奈落の底へと落ちたこの人物が、いうなれば警察組織の外から事件を眺めていくことで、今までは死角となっていた様々な犯人の手掛かりに気がついていき、その渦中に自分自身がいたことが明らかにされる、――という展開はサスペンスを基調とした物語としては非常にうまく出来たものながら、同時にそれは読者の視点をこの探偵に重ねてしまったことで、逆に犯人像が存外にアッサリ判明してしまうという副作用をも生み出してしまっているような気がします。
とはいえ、こうした展開の作品をフーダニットも含めた本格ミステリ的な読みで挑む読者はアンマリいないと思うので、このあたりは好み、かもしれません。寧ろそうやって犯人像をイージーな方向に持っていったことで、警察内部にいたからこそ真犯人へ到る手掛かりに気がつかなかったというある種の逆説を生じさせ、それがまた奈落へと落ちた探偵の悲哀を生み出すという効果をもたらしているいることも考えれば、こうした結構は大いにアリ、だと思います。
中盤以降の何ともやるせない展開と鬱っぽい幕引きなど、警察組織の確執を地の文でも濃密に書き込んだ作風もまた好き嫌いが分かれるのでは、と推察されるものの、一人の男の悲哀を暗い筆致で描き出したサスペンスの風味は非常に上質で、「症候群」シリーズとかが好きな読者であればなかなかに愉しめるではないかと思います。