「読むひばり」、赤星氏の最新作。都市伝説を絡めた實話怪談フウの結構で流した「虫とりのうた」はそのB級テイストゆえ、自分はかなり愉しめたのですけど、今回はそうしたB級のノリはやや後退させ、實話怪談めいた「因縁」とミステリの「伏線」とを交錯させた仕掛けが秀逸な佳作でありました。
物語は、子持ち女と付き合っているボンクラ男が、大学時代に耳にした「赤い蟷螂」の都市伝説に再びかかわることになり、不可解な出来事が起こり始め、……という話。何ともいえない不条理さ、不気味さで幕を開けた「虫とり」に比較すると、本作では物語の構成にそうした不条理から生じるぎこちなさはなく、噂話から不可解な人死にまでを平易な文体で語ってみせる大学時代の話から、現代へと繋げていくところもスムーズで、このさりげない流れの中に、実は事件の根幹にかかわる伏線が隠されているところなど、ホラーとしての見かけの構成もうまければ、個人的には、ミステリとしての考えられた仕掛けに感心至極。
昔風味のネット事情と、現代のウェブとを対置させて、都市伝説フウの怪異となる「赤い蟷螂」の出現方法に工夫を凝らしてあるところがなかなかで、一見すると、時代考証としてこうした差異が現れているに過ぎないかと思わせつつ、本作をミステリとして読んだ場合に、この差異が犯人を限定していくための伏線として機能しているところも面白い。
本作では、「赤い蟷螂」という事件の謎を牽引していく怪談があり、主人公が追いかけていく本丸の謎も、この物語で語られている「赤い蟷螂」の正体と人死にの連関ということになる譯ですが、その一方、非常に唐突なかたちでゴロンと配置されているとある新興宗教や、こっくりさんまがいの招霊術などが、物語の早い段階から読者の前に呈示され、これらが物語が進むにつれ、怪談めいた「因縁」へと転化し、それが最後の最後、ミステリとしての謎解きがなされた段階では、真犯人の操りを明らかにするための伏線として姿を現すところなど、――一見すると、B級ホラーに見えながら、ミステリとしての手さばきは処女作よりも明らかに向上しており、実際、本作では怪異に見えた現象はミステリとしての推理と謎解きによって一応の解決を見るという幕引きを迎えます。
しかしそれでも割り切れないところがあって、真犯人の末路などにややベタにも感じられる因果応報を怪異として見せたところなど、謎解きによる真相開示の後でホラーへとひっくり返るという見せ方は、三津田氏の刀城シリーズに通じるところもあるカモしれません。
とはいえ、三津田氏のように、精緻なトリックが謎の根幹に添えられているような風格ではなく、本作は本格ミステリとして、というよりは、怪談としての「因縁」と、ミステリとしての「伏線」を交錯させた趣向に見られる、「ホラーなのか、ミステリーなのか」という揺らぎの中において評価すべき一作として読んだ方が俄然、愉しめるかと思います。
そうした意味では本作、三津田氏というより、個人的には「いよいよ草野唯雄センセの後継者が現れたナ」と感じた次第でありまして、実際、本作のB級ホラーテイストと、妙なところにヘンテコ・エロスを添えてしまうところなど、草野センセを彷彿とさせるところがテンコモリでありまして、主人公の夢見のシーンの不条理さとひばりらしさはもとより、本作で特に注目したいのは、後者のエロスの方でありまして、怪作「死霊鉱山」にも通じる、頭を抱えてしまった奇天烈エロスの台詞を引用してみるとこんなかんじ(一応、登場人物の名前は伏せ字にしておきます)。
「そうそう、**はな、SMプレイが好きでな。浣腸をしてやると、涎を垂らして喜んでいたぜ。おれの目の前で限界まで我慢して『もう我慢できない』ってアソコを濡らして言ったもんだ。『思いっきりやってみろ』って言ったら、尻からもの凄い音の屁をしたあと、糞をシャーと垂らして恍惚とした表情を浮かべていたな。シャーって糞をするんだぜ。くせえのなんのって、思い出しただけで、おっ立つなあ……。おまえの出した糞を食べろと命令したら『はい、ご主人様』と言って糞をぺろぺろ舐めていたなあ」
正直にいうと、このシーンはこんな台詞がなくても十分に成り立つと思うし、「いったい誰が得するの、ていうか、メフィスト賞作家の作品にこういう台詞が入っているっていうのはどういうもんなのヨ」と、これにはキワモノマニアの自分もさすがに頭を抱えてしまうより他なく、メフィストにここまでアレなエロはないだろ、と考えたものの、よくよく記憶を辿ってみれば、乾氏の処女作「Jの神話」でも、あんな格好されて匂い嗅がれてイヤん、というシーンもあったことだし、ここは「Jの神話」同様、果たして上に引用したこの台詞が作中のどこに出てくるのかを探す「だけ」でも、本作を最後まで読む価値はあるのではないでしょうか。
こうなったら、草野センセを見習い、もう少しミステリの技巧を洗練させるいっぽうで、ヘンテコ・エロスの風味はより過激化させ、「死霊鉱山」を超える怪作を、赤星氏にはものにしていただきたい、と願ってしまうのでありました。草野ミステリ最高ッ、というキワモノマニアには強力にオススメしておきたいと思います。