前回の続きです。さて、車で移動したのは日壇公園の隣にある和平芸苑というレストラン。ここは入ってから地下の廊下にいたるまで美術品がずらりと並べてあるという豪奢な雰囲気タップリのお店でありまして、御大は地下の個室で雑誌のインタビューを受けながらの昼食となりました(雑誌は確か「エスクァイア」だったと思うんですけど自信なし)。
記者は若い女性とイケメンの男性の二人で、このインタビューのほか、「島田荘司に大接近」という企画もあり、今回、この企画へ参加されたのは北京大学ミステリ研のファンで、本格ミステリの創作などについて御大に色々と質問をしていました。インタビューのあとは店の外で写真撮影が行われ、それを終えると一行は「時尚先生」などメディアのインタビューのためにホテルへと引き返した筈、――というか、自分が追いかけることができたのはここまでなのであとは不明。
二日目となる十日は、御大がもっとも忙しかった一日ともいえ、八時にホテルを出たあと、向かったのは「島田荘司六十一年読書会」と題して、大陸版「眩暈」の発表会が行われる会場である世貿天階。高層ビルが林立するショッピングモールの一角にある世貿天階の上階にある洒落たブックストア「時尚廊」で行われたこのイベントは、携帯に3Gで映像が同時配信されたとのこと。この「時尚廊」は、昨年のiPhone 3Gの発表会が行われた会場でもあるとのことで、美術書が整然と並べられ間接照明を凝らした店内の装飾にセンスが光ります。
今回の北京滞在では、ファンが参加するイベントがいくつか行われたわけですが、素晴らしいと思ったのは様々に趣向を凝らした企画の内容で、御大のトークが重複しないようにしながら、その一方で、ひとつのイベントにしか参加出来ないというファンにもシッカリと配慮してあることで、本格ミステリーの概念など創作における重要項目については、イベントごとに言及しつつ、個々の作品に関するエビソードなどについては、違ったアプローチによって御大から話を引き出そうとしていたところは好感度大。これは今回のイベントを立案した・權盟氏の企画力の賜物でしょう。
さて、前日は「七つの罪」と題して、御大の作風や功績について様々なエピソードを織り交ぜたトークが展開されていましたが、この「時尚廊」でのイベントでは、まずキーとななる年代を挙げて、その年にどんなエピソードがあったのかを御大に考えてもらう、という趣向でありました。
キーとなる年はそれぞれ、1948、1957、1980、1984、1987年などで、ネタを明かしてしまうと、1948年は「広島」1957年は「松本清張」、1980年は「占星術殺人事件」、1984年は「吉敷竹史」、1987年は「追随者」というかんじで、最後には「2010」と「未来」でまとめ、「五年で中国のミステリは大いに発展することを確信している」という御大のコメントに満場は拍手喝采。
そのあとは、ファンがひとりひとり前へと出てきて、御大への質問タイム。昨年のイベントには出席出来なかったという島田荘司ファンクラブの會長の女性は、今回アメリカはロスから駆けつけたとのこと(写真上)。今回の北京でのイベントで印象的だったのは、いずれのファンイベントでも、思いのほか創作に関する質問が多かったことでありまして、このあたりは昨年の台湾とはちょっと違うな、という感じを受けました。大陸のミステリ・ファンはかなり創作に対する意欲が高いようです。
例えば「小説を書いてもいつも途中で挫折してしまう。どうすればいいでしょう」という質問に対しての御大のアドバイスは、「まずは物語の最後までしっかりとあらすじをまとめてみること」。これは、自然主義小説とは真逆をいく本格ミステリの人工性というものを考えてのものに違いなく、北京大学での講演でも「本格ミステリの人工性」というのは重要なキーワードにもなっていました。
また「アイディアはどうやったら出てくるんでしょう」という定番の質問については「これもよく訊かれるんですが」と前置きしたあと、「とにかくメモをとること。メモなんか取らなくても思いついたアイディアは覚えていると考えるかもしれませんが、実際にデビューしてしまうと、そんなことはない。アイディアを必ずメモに書き留めておき、それをしばらくしてから見直すといい。そのときは駄目かな、と思ったものでも、いくつかを組み合わせれば素晴らしいものになることもあるし、そうしたときのためにもアイディアはメモしておくこと」という主旨のアドバイスをされていました。
そのほかにはイギリス在住のファンからの電話を御大に直接繋げるという企画もあって、携帯電話を渡された御大は通訳を介さず、英語で直接話をしていました。そして最後は参加者の中から選ばれたファンの一人が前に進み、御大とともにグラスワインで乾杯したあと終了となったのですが、質問タイムが盛り上がりすぎたため、時間は遙かに超過してしまっていました。このあと、御大は遅めの昼食をとられて、洒落たバーや店が立ち並ぶ観光スポット、後海へと車で移動し、そこで新星出版の社長とメディア抜きの対談を行った筈です。
北京大学の講演は夜からなので、それまではフリータイム。この間に自分は吉林出版の編集者氏と「本格ミステリー・ワールド 2010」で「大陸ミステリ事情」の記事を執筆された天蠍小豬氏や水天一色嬢と食事をしたのですが、これは御大ネタではないので割愛。ちょっとだけ昨日のplurkに書きましたが、一応、天蠍小豬氏と水天一色嬢の写真だけ掲載しておきます(写真左から天蠍小豬氏、中国での東野圭吾ブームの仕掛け人で、現在は網易のエディターである李孃、そして熱烈な御大ファンである島田軍副將氏、水天一色孃)。
このあと自分たちも御大のいる後海へと移動し、北京大学の講演にそなえたのですが、文字数が超過したので、続きについては以下次号、ということで。