前回の続きです。今気がついたのですが、すでに授賞式のレポートは終わっているわけで、今回のエントリも精確には台湾大学講演会レポートとするべきなのでしょうが、こうして番号も振ってしまっているのでそのまま続けます。
さて、島田荘司展会場である皇冠のビルで五日に行われた講演およびサイン会について綴った前回のエントリに続いて、今回はその翌日、六日に台湾大学で行われた講演の模様をお伝えしたいと思ったのですが、その前に、サイン会が終わったあとの五日の夜の出来事について少しだけ書いておきます。
ちなみに御大が訪台された期間、台北ではデフリンピックが開催されておりまして、特にこの五日は皇冠のオフィスがある周辺にも交通規制が敷かれ、なかなか簡単にタクシーでは移動できない状態となっておりました。で、サイン会を終えると、一行は近くにある台湾料理のレストランでの食事のあと、夜の西門町へと繰り出すことになりました。
なぜ西門町かといいますと、ここは島田荘司推理小説賞受賞作である「虚擬街頭漂流記」の舞台となっており、本当であればこの作品の内容に一番詳しい作者である寵物先生に案内してもらいたかったのですが、作者も色々と忙しかったようで、さらにはこのときは御大の通訳である張女史も受賞作を未讀とのこと。ではその代理にと、一行の中で唯一この小説を読了していた二次選考委員の日本人が案内を務めることになりました。もっとも案内といってもほとんど時間がなかったので、MRT駅周辺と西門紅樓を中心に、そのあと路地を少しばかり奥に入ったところだけを回ることに。
数台のタクシーでレストランから西門町へと駆けつけた一行は誠品116の前で待ち合わせ。ここは「虚擬街頭漂流記」の中では死体発見場所でもあるわけですが、小説とは違って、もちろん死体はなく、この日の夜は若モンのラッパーが「YO! 俺の名前はハスキー」とかいうラップを歌っていたのですが、柄刀氏が手に入れた「虚擬街頭」の本に記されている西門町の地図を見ながら、登場人物である二人の経路を確認していたのが印象的でありました。
西門紅樓は日本人の近藤十郎が設計した建物ということで、日台ゆかりの場所のひとつでもあり、樓内の展示物などを皆で鑑賞。しかしビックラこいたのが、皇冠の編集者であるエミリー嬢曰く、この建物の裏にあるバーなども含めてここらは「そのテの方々」が集まる場所であるとのこと。確かによくよく見れば、バーの隣にある下着屋にはムキムキ・ボーイの写真が扇情的に飾られているし、バーのテーブルを囲んでいるのも筋骨隆々の体にランニングシャツを羽織った男衆ばかり、……と、このあたりを周回したあと、コーヒーショップに入って小休止、そのあと解散となりました。
というわけで、その翌日。台湾大学での講演は午後二時からで、ちなみに受賞者である寵物先生はこの大学のミステリ研出身です。実際の講演ですが、この前日に皇冠のオフィスですでに講演は行っているので、この日はフリー・ディスカッション風にいこう、という御大の提案から、まずは台湾大学ミステリ研がどのような活動を行っているか、現役メンバーがそのあたりのスピーチを行いました。
読書会と批評が中心という台大の活動について、御大が比較の対象として取り上げたのが京都大学ミステリ研の「犯人当て」でありまして、ここから綾辻氏や巽氏などのエピソードが語られました。内容の方は多分日本のファンはすでにご存じかと思いますので、ざっとまとめるだけにしておきますが、……綾辻氏が御大の講演のときに乗っているバイクは何かと訊いてきたという話や、「夕鶴」についての感想などなど、だったと思います。あと「どんどん橋、落ちた」を取り上げて、「犯人当て」に注力した京都大学の活動が新本格の風格を決定づけることになった、等等……。このあたりの内容は一応録音しておいたのですが、果たして日本のマニアに需要があるかどうか。もし興味がおありであれば、時間が出來たときにでもテープ起こしして日本語にするので、コメントを残していただければと。
個人的に興味があったのは、台大の活動は読書会と批評が中心となり、創作の方はあまり行われていなかったとのこと。しかしそれはどうしてなのか、というところでありまして、それは創作を行ってもどうせ出版できないから、という台湾における出版業界の事実から来るものなのか、それとも……というところだったのですが、色々な話を聞いてもちょっと判りませんでした。
質疑応答で気になったところを取り上げると、「御手洗は日本には帰ってこないのですか? もう石岡君とは一緒に暮らさないんですか?」というかんじの質問については「難しいなー」と。さらに「石岡君と里美ちゃんはくっつかないんですか?」という質問にも「難しいなー」。御大的には何かもうアンマリ石岡君には興味がない様子(爆)。主要登場人物たちの恋愛エピソードを物語の中に添えることにも積極的でないというか、石岡君と里美ちゃんの仲についてもファンの希望としては様々で、こちらを立てればあちらが立たずというような状況でもう考えるのが面倒くさくなってしまった、とのことです。「台湾を舞台に御手洗ものの構想は?」については「それはもちろん考えています」という嬉しい言葉。ただ他に書かなければいけない話がたくさんあるので、まだまだ着手するには時間がかかる、ということでした。
あと「リベルタスの寓話」に収録されている二つの物語の並べ方について、「リベルタス」を後にして「クロアチア」を前にした方が良いのでは、という提案が聴衆の中からありました。これについては「文庫化されるときに考えてみます」とのことでした。個人的には今の並びの方が好きなんですけど、これは話すと長くなりそうなので機会があったら書いてみたいと思います。それと今回の島田荘司賞に関して、一次選考を通過した中の一作である「不實的眞相」に絡めた質問があったのですが、これはまた別のエントリで取り上げる予定です。
というわけで、台湾大学での講演を終えた一行は、御大の帰国を明日に控え、猫空のレストランで台北最後の夜を満喫することとなりました。ここでも色々なことが語られたのですが、とりあえず今回はこのくらいで。次回は多分、番外編ということで、初日三日に茶芸館で語られた「寵物先生の『泣ける本格』の作風についての考察」についてと、「不實的眞相」のあらすじ、そしてもし字数があれば、猫空で語られた「アジア本格の未来」について取り上げてみたいと思います。というわけで、以下次號。