受賞レポートの合間に添えている小ネタですが、今回は昨日のエントリで取り上げた「印加古墓之謎」の作者であるAzure嬢のブログを紹介したいと思います。
受賞レポートの合間に添えている小ネタですが、今回は昨日のエントリで取り上げた「印加古墓之謎」の作者であるAzure嬢のブログを紹介したいと思います。
前回の続きです。で、いよいよ受賞者の発表となったのですが、手渡された封筒の中に入っている受賞者の名前を御大自らが読み上げるというかたちで行われました。
受賞者は既報の通り、ミスター・ペッツこと寵物先生の「虚擬街頭漂流記」でした。
満場の拍手喝采とともに、受賞者である寵物先生が御大のいる壇上へと上がったのですが、もう体はガチガチで緊張しているのが判りまくり(笑)。カメラのフラッシュが焚かれるなか、その眸が潤んでいたのを彼の友人たちが見逃す筈もなく、授賞式のあとは散々突っこまれていたことと思います。しかし、「占星術殺人事件」の解説を書いた内田直行氏がその後、日本のミステリに新たな歴史を刻む大作家となったように、「摩天楼の怪人」の解説を書いた寵物先生も将来は台湾ミステリを大きく発展させる立役者になるんじゃないノ、なんて冗談でいっていたことが本当になってしまったのにはチと吃驚。
受賞者のトロフィーは「水晶のピラミッド」を思わせるピラミッドのかたちをしたもので、入賞者の二人である林斯諺氏と不藍燈氏にも同じかたちの、少し小振りのピラミッド型のトロフィーが御大から手渡されました。
写真は受賞者である寵物先生とは対照的に、非常に落ち着いた様子の林斯諺氏。「冰鏡莊殺人事件」の作者です。
そしてもうひとりの入賞者である不藍燈氏。ちなみに入賞した三作のジャケには日本語のタイトルが記されているのですが、「快遞幸褔不是我的工作」のタイトルが「幸せ宅急便はぼくの仕事じゃない」とそのマンマだったのにはチと笑ってしまいました。
そしてテープカットのあと、御大とともに島田荘司展の会場を皆で回るという企画が催されました。四時からは入賞者が御大と一緒にティー・タイムという企画があり、寵物先生、林斯諺氏、不藍燈氏、そして日本からの出版社の編集者の方々は会場となった皇冠のビルの七階へと移動しました。
会場には、入賞者のほか、講談社からスタートした「島田荘司選 アジア本格リーグ」の第一弾として日本で刊行される「錯誤配置」(原題・「錯置體」)の作者である藍霄氏の姿もあり、このシリーズの仕掛け人である講談社の蓬田氏と話をされているのを盗み聞き。藍霄氏は新作長編を執筆中で、この新作はより台湾ミステリとしての風格を前面に押し出した作品になるとのこと。
2004年に刊行された「錯置體」から、「光與影」、「天人菊殺人事件」と矢継ぎ早に長編を刊行したあとは、本業である産婦人科医としての仕事に忙しく、創作の方はセーブしていた藍霄氏ですが、「錯誤配置」の日本での刊行をきっかけに前線復帰して、今回の第一回島田荘司推理小説賞の受賞者、入賞者である寵物先生や林斯諺氏、そして冷言氏や陳嘉振氏などとともに台湾ミステリをさらに盛り上げていっていただきたいと思いますよ。ちなみに「錯誤配置」は日本で翻訳刊行される台湾ミステリとしては初の長編小説となり、上の写真はいち早く届けられた「錯誤配置」を手にした御大と藍霄氏とのツーショット。
さて、ここでちょっと話を変えて、今回の台北でのイベントのタイトルが「密室裡的大師 島田荘司的推理小説世界」となっていることに「アレ?」と思ったひともいるのではないでしょうか。すなわち、「密室っていうけど、御大の作品って、コード型本格のド真ん中である密室とはもっとも遠いもんじゃないの?」というふうに。
これは式典での御大のスピーチを聞けばたちまち氷解することでありまして、このときの御大の話から印象的なフレーズを抜きだしてみると、いわく「今、わたしたちは扉の前に立って」おり、「その扉の向こうには本格ミステリの第二の黄金時代が広がっている」――日本から始まった「本格HONKAKU」は今、ここ台北からアジアに、さらには世界へと広がっていこうとしており、私たちは今、そうした本格ミステリの新しい世界へ向けてその第一歩を踏み出したのだ、……と。すなわち、「密室」という言葉によって象徴される閉塞した日本の本格ミステリのシーンから、今、「密室裡的大師」はその扉を開けて、アジアへ、そして世界へと飛び出したのだ、というメッセージがここには込められているわけです。
とはいえ、日本の本格シーンだけ見ているとまったくピン、と来ないかもしれませんが、台湾の熱狂的なミステリ・ブーム、さらにはここ一、二年で急速に発展しつつある大陸の本格ミステリシーンなどに目をやると、今や本格ミステリはまったく違うステージに入りつつあることが実感できます。実際、藍霄氏の「錯誤配置」(原題・「錯置體」)が刊行された2004年から今年までの五年の間における台湾ミステリの進化の勢いは、定点観測を続けている自分も驚くほどで、この島田荘司賞をきっかけに、台湾から中国大陸、そしてタイ、さらにはインドというふうにアジアの国が交流を進めていった暁には、いったいこのうねりがどれほどのものになるものか、――と未来の本格ミステリの姿に思いを馳せてしまうのでありました。
日本のミステリ界では、「とにかくとにかく日本の名作傑作を英語に翻訳してアメリカに進出するんダイ!」という動きが大勢かと推察されるものの、台湾ミステリ陣営としてはそれとは逆に西回りで全アジアを巻き込みつつ、この波へさらにフランスやスイスもくわえてアングロサクソンの国を目指していきたいと思います。
で、このティー・タイムのあとは、皇冠文化集団發行人である平氏の招きでディナーが催されたのですが、日本の編集者、そして島崎御大も交えて日台ミステリのよりいっそうの発展を誓い合った当夜の出来事についてはまた次のエントリで取り上げます。というわけで、以下次號。