ミステリーYA!のシリーズでも、どちらかというと本格ミステリというよりは冒險譚の風格が強い一冊で、「ミステリー」的な謎と解決重きを置いて物語を追いかけていくよりは、シンドバッドと弟子たちが織りなす「スリルたっぷりの壮大なアドベンチャー・ファンタジー」をそのまま味うのが本作の正しい讀み方だと思います。
自分のようなミステリ讀みのボンクラがこういうファンタジーに對してまず臆してしまうのは、設定内におけるリアルさを圖りかねるところだったりする譯ですけど、本作の場合シンドバットの物語であることが事前に明らかにされているゆえ、魔法の絨毯や魔人が御登場とあっても沒問題。
ジャケ裏のあらすじにあるように、街中の廣場に立つオベリスクが消失してしまうという謎が前半に呈示されるものの、こちらよりは主人公がシンドバットの「繼承者」で、先代お師匠から引き繼ぐかたちで行われている宝探しの設定の方が秀逸で、魔術的な力を有している呪いの寶石をひとつだけ持っていると不幸に見舞われるゆえ、それを同時に二つ手に入れないとダメ、という法則をベースに、シンドバットはいかにして件の呪いを回避するのか、――というところがミソ。
ここにシンドバットを繼承していくという設定と、お馴染みのランプの魔人を案内人としていくつかの縛りをもうけているところが最後に連關を見せていく展開は痛快です。
この風格のファンタジーに期待されている展開として、後半はワルとの一騎打ちとなる譯ですけども、どうやらワルは魔術的な效力を有している寶石を用いて「皇帝」なる邪悪な存在を覺醒させることを目論んでいる樣子。何しろ舞台はアラビアでありますから、最後はもしかしたらクトゥールーネタが大開陳されるカモ、なんて邪な期待を抱いてしまった自分はかなりアレで(爆)、本作はYA!世代に向けた物語ゆえ、クラニーみたいな奇人でもない限り、このあたりの大爆発は御法度でしょう。
しかし覺醒したおぞましき「皇帝」の姿のションボリぶりもかなりアレで、シンドバットの攻撃を受けて暴走する「皇帝」には理性のカケラもかいま見えず、最後はやや呆氣ないかたちでご臨終という幕引きにはやや唖然。
自分のようなキワモノマニアだと、どうにも邪悪な方向へと物語に過剰な期待を寄せてしまうゆえ、そういうキワモノの御仁はやはり同じミステリーYA!のシリーズでも、クラニーの「プランク」を手に取るのが吉で、本作はやはり邪な心を持たない純なYA!世代の若者に讀んでもらいたいと思った次第です。