アマゾンのあらすじに曰く「世にも奇妙な恐怖物語」とある通りに、偏執的なロジックによって暗黒面へ堕ちていく人間を真っ黒な筆致で描いた好編揃い。
収録作は、タイムマシンを発明したゲス博士がライバルを殺そうともくろむも、タイムパラドックスの陥穽に陥るさまにバカ風味を添えた表題作「完全・犯罪」、ユダヤ人の復讐劇に、倒錯した賭けと可能性の犯罪を絡めた「ロイス殺し」、双子娘の自我崩壊と偏執が最後に意想外な反転を見せて黒い幕引きとなる構成が秀逸な「双生児」、虐めと過去の記憶のコンボという恐怖小説の王道「隠れ鬼」、天然のおふざけと狂気がないまぜになってこれまた黒い奸計がブラックなラストへと突き進む「ドッキリチューブ」の全五編。
「完全・犯罪」は、タイムマシンを使って犯罪をもくろむも、タイムパラドックスの問題が色々とあって、……というこれまた王道ともいえる趣向に、犯罪者志願のゲスな博士のキャラをビンビンに際立たせた逸品で、そこに小林ワールドならではの偏執的な論理をブチ込んだ展開が素晴らしい。最後はおふざけとしかいいようがない、バカバカしい幕引きへと落ち着くのですが、最後の一行によるツッコミで締めくくるなど、狂気とバカに徹した結構が非常に美味しい一編です。
SF、恐怖小説といった風格の短編が並ぶなか「ロイス殺し」だけはミステリといえる作品で、実をいうと収録作中、一番地味な印象。とはいえ、ロイスなる被害者の名前をタイトルにも掲げておきながら、男の独白による浪花節が延々と語られる結構は破天荒。ようやく中盤にいたってロイスと語り手との出会いが明らかにされ、この男がいかにして復讐を達成したのかが語られていくのですが、最後のオチはそうした犯罪計画に注力させつつ、読者としてはスッカリ忘れていたあるものが唐突にデン、と出てきて幕、という、語りの構成に絡めた仕掛けが秀逸です。
「双生児」は、双子の子供を持つ親だったらこういうのはあるかもね、という逸話も交えて、双子の一人が自分は何者かというところにこだわりまくった偏執さがキモ。双子のもう一方はいたってフツーで、幼少時代に体験した親の行動についても、まあ、そんなこともあったかもね-、とサラリと受け流せるという、二人のキャラの対比を最後の仕掛けへと繋げてみせる構成がいい。最後の最後のオチは例によって黒い幕、というかんじなのですが、やややりすぎかな、という気がしないではないものの、ここまでブラックさにこだわった作者の意気込みにはもう脱帽。
「隠れ鬼」は、主人公のいじめの過去と記憶という、高橋克彦をまつまでもなく、恐怖小説としては定番のネタながら、最後のオチがいい。確かに最後に語り手がこうなることは予想できたものの、まさかこんな大仰な幕引きが用意されていたとは苦笑至極で、恐怖の対象ともいえるあるものの造詣や、最後のオチへと繋がるある人物の奇矯な行動といった動的な描写と、どこか静謐ささえ感じさせるラストとの対比が効いています。
「ドッキリチューブ」は、自分のような昭和世代であればお馴染みともいえる、テレビのどっきりをネットで敢行、という悪ふざけ野郎どもの首謀者が、身内から奈落に堕とされるというブラックなネタがいい。しかもその行動が次第にエスカレートしていき、最後にはこれまた予想通りの展開となるのですが、そうした期待通りの流れに黒い笑いもより際立ち、これまた「隠れ鬼」同様、妙に静謐な雰囲気を湛えた幕引きがステキです。
ミステリというよりは、恐怖小説に近く角川ホラー文庫から出ていればもう少し読者も安心して手に取ることができたのではないかナーという一冊で、偏執的なロジックを変態的な本格ミステリへと昇華させた小林ワールドを期待するとやや肩すかしを喰らうことになるかもしれません。角川ホラー文庫のような作風を期待されている読者であれば没問題でしょう。