ツイッターのミステリクラスタでも脳が溶ける地雷本として今、話題沸騰の本作、この流行に乗り遅れてはなるまいッ!ということで、ライトノベルなどマッタク読まないボンクラのロートルながら、手に取ってみました。まあ、要するにネタとして買ってみたのですが(爆)、結論からいうと、小説としてはその奇妙奇天烈で「脳細胞がキュンキュン」してしまうような台詞回しを除けば存外にマトモ、――というか、むしろ古くさいフォーマットに則ったその構成と展開はレトロ風味さえ感じさせる一方、作中で開陳されるミステリの技法には光るものがあり、ただの地雷本として貶めるだけでは勿体ないという一冊でありました。
収録作は、「濡れ衣体質」という、そもそも日本語としても何だか座りがよろしくない言葉で表現される奇怪な体質を持った主人公が、その名の通りに変態扱いされてしまったと殴打事件において、「あっはっはー」という脱力の空笑いをしながら、頭のネジが外れた娘っ子探偵の助けを受けることになる「モバイルフォン・ディテクティブ」、本格ミステリ界隈では定番も定番のド定番で今やネタにするだけでバカにされかねない幽霊ネタに、細やかなミステリの技法を凝らした「金髮少女がやってくる」の全二編。
ライトノベルとして本作のキャラ造詣がイケてるのかイケてないのか判らないのですが、娘っ子二人がそれぞれデレとツンに分かれてい、探偵の方は二重人格的で頭のネジが一つも二つも外れて超ヤバイ、というところも「そういうものなんだな」として読めばそれほど気になることはありません。
というのも、本作は濡れ衣体質なる主人公を語り手に、要はこのボーイが事件に巻きこまれ、その中で娘っ子二人を絡めてあーでもないこーでもないという展開が中盤に挿入されるものの、結局は探偵の娘っ子が謎解きをしてハイオシマイ、という定番も定番のミステリの結構を採っているからで、登場人物たちの台詞回しの奇天烈ぶりを除けば、小説の構成そのものはかなりマトモ。
特に「モバイルフォン・ディテクティブ」は、冒頭から「マロングラッセみたいな雰囲気」や「ぴくぴくとおびえるチワワの耳にも似た動き」といった独特の甘ーい表現が際だってい、こうした比喩的表現も交えた情景描写を隱蓑に、細やかな誤導を凝らしているところが素晴らしい。
事件そのものは、娘っ子が何物かに殴られるものの、部屋は密室で犯人の出入りは不可能、結局、第一目撃者となる主人公がその濡れ衣体質から犯人として疑われる、――という、これまたド定番の流れで見せてくれるわけですが、登場人物のフと洩らした言葉に揺らぎを添えて、ある人物の心の動きを繙いていく推理は本格ミステリの技法としてもかなりのもの。
個人的にはこのあたりのセンスを大いに評価したいところで、続く「金髮少女がやってくる」においても、幽霊だか死に神だかが目撃され、その正体は何、という謎において、さりげない描写の中へ怪異の真相へと近づくためのヒントが絶妙に隠されているところなど、奇天烈な台詞回しなどの枝葉を取り除き、謎―論理的解決という本格ミステリの骨格そのものだけを見てみれば、これがなかなかよくできていることが判ります。
とはいえ、「モバイルフォン・ディテクティブ」では、本作独特の、メリケン練り菓子のような甘ったるくて体にも激悪そうな文体が、巧みな誤導へと昇華されていたのに比較すると、「金髮少女」ではさらに頭のイカれた金髮少女が加わることで盤石な小説世界がかなりのカオスと化しているのもまた事実、そうなるともう、最初からこの奇妙奇天烈な台詞回しや脱力表現をリストアップしてみたくなるのがダメミス読みの性、というものでありまして、以下、ざっと並べてみますと、
「ぴゅぴゅんっ」「ぼくはぶちまけられるのが好き!」「とろぅり、ぴちょん」「わ、わわわわわわっ?」「ごしごしごしごしごしごしごしごしごし」「いえっふー」「うにゅ」「ぷにゅぷにゅぷにゅぷにゅ」「あうあうあう」「あっはっはー」「濡れてびしょびしょなんだぜコンチクショウ」「ういーす」「ういういーす」「ぷにゅぷにゅぷにゅぷにゅぷにゅ……」「めー・たん・てー。略してM.T.T」「でんわでんわー」「らやまスィー」「みぃあぁぁー」「きみの股間から甘い香りが漂っていることだって知っている」「ところでぼ」「あっはっはー」「ラジャーですわ!」「いやしんぼめ」「さいですか」「へたれポンチ」「うわっふー」「脳細胞もキュンキュンしちゃうんですっ」「ホップ・ステップ・ジャーマンスープレックスーみたいな」「しゅしゅーっと」「わたし、がんばりました! ツンッ!」「こんちゃーっす」「クエー」「くえええええー」「あっはっは」「クエー」「腐れ外道のけだものヤロー」「ばーろーおおおおぉい!」「うぇぷっ?」「わほほーい、じんろー」「わほほーい、住職さんか」「えいえいえいえいえいえいえいえい」「あうあうあうあうあうあう」「ぷにゅぷにゅぷにゅぷにゅぷにゅぷにゅ」「ぷにぷにのラッシュはそこまでぇ!」「ふもにゅ?」「むー」「ふれーふれー」「うわっふー」「な、なぬ?」「うぉんうぉん!」「ぜーぜー」「そこには大勢のゴールデンハムスターが詰めこまれていて、あひぃぃぃぃっ」「わうー、なんだよこれ」「あぐあぐあぐ……もが?」「あのぅ……」「ひゃん!」「がお~~~~~~~~~っ!」「ふぉいしーい!」「うにゅー、とにかく新食感!」「ほにゅほにゅほにゅほにゅ」「むぐー?」「は……あふ?」「ふぁうー?」「どうぞ……くいしんぼさん」「ほえー?」「ワー」「わー」「……にゃう!」「うにゅ。ごめんなさい……」「ぎゅー……ドン?」「わっふー」「にゅはは」「ぎゅーだよぎゅー」「にゃーん、楽しみー!」「ぴっぴっぴっ」「もしもし。こちらボクだよ」「ぽくぽくぽくちーん」「ゴゾンジもゴゾンゾも知らんよ」「うわっふー。あたしはじんろーの命のおんじんなんだなっ!」「ぽりぽりぽりぽり……」「こちょこちょこちょこちょ!」「はきゃああっ……」「ぱうちっ?」「はきゃ、はきゃきゃっ! やめてぇ」「ひゃふっ? くしゅぐっきゃ、きゅああっ?」「く、くしゅぐっひゃくて、しゃべれなしゅ」「こちょこちょこちょこちょこちょっ!」「きゃうう!」「た、たひゅけて! たひゅけてじんろーひゅあんっ」「ぷー、ぷー、ぷー!」「ありしーのおしりをぺんぺんしちゃうし」「あっはっはー」「にゅはは。わたしも好きー」「ふにゅは。ごめんー」「ごめんで済んだら探偵はいりませんっ」「めんごー」「にゅあ……栗原にゃんっ」「はわわー! なんかいるよー!」「にゅうむ? はてはて」「にゅーううむ」「うわああああああああんっ!」「はわわわわっ」「にゃうー、気にしない気にしないっ」「ふわわわわわわんっ!」「ふぐ?」「もう一生どっか狭いところに閉じこもってチョコレートバーとかしゃぶっていたいなぁ……」「に、にゃあにゃあ!」「うにゅ」「わわっ?」「『火刑法廷』です」「家庭崩壊?」「OKぽっき!」「きゃうん!」「執事……。ヒツジじゃない」「さぁ、タイタニック号の舳先にいるみたいに両手をひろげて、大きな声でいっちゃいな!」「手がかり-、手がかりー、にゅううむ……」「うにゅ! なにがあったのーっ?」「にゅははー。まじでまじめにやろうー」「ばろべろぼー!」「ぴんぽーん」「やあやあ死神くん、こんばんは。ご機嫌はいかがかな?」「金髮大好きいいいいいいいぃぃぃぃ~~~~~~~~~っ!」
……と敢えて改行ナシでぶちまけてみましたが、とにかくこうした台詞回しによって、まさに作中にある通りに「脳細胞をキュンキュン」させてしまう本作の風格は個性というべきなのか才能というべきなのか、――確かに一ページに一回は挿入されているんじゃないノと錯覚してしまうほど耳に残る「あっはっはー」という脱力の笑いも交えた主人公の独白に付き合うのは苦行ではあるものの、上にも述べた通り、ミステリ小説としては存外にマトモなゆえ、「うわっふー」をはじめとする台詞はテキトーを読み流せばごくフツーの小説として読むことも可。
また、上の引用にもあるような『火刑法廷』が「家庭崩壊」で、「執事」が「ヒツジ」で、「猪口才」が「チョコ罪」で、
「わたし、ミステリー小説をよく読むんです。……たとえば窓から爆彈を投げこむとか!」
「それじゃミリタリー小説だよね!」
「かんしゃく玉を投げこむとか!」
「それじゃヒステリー小説だよね!」
というような、確信犯的ともいえるズゴーッと滑りまくりの駄洒落を臆面もなく晒してみせる作者の剛気には関心至極。キワモノ好きであれば、ツイッター上で大盛り上がりを見せている今こそ手にするべき一冊ながら、いうまでもなく取り扱い注意、ということで。