何だが脱力のB級ハリウッド映画を見たときのような讀後感で、微妙には違いないんですけど、この微妙さが寧ろ微笑ましい、というか、――そういう作品です。
角川ホラー文庫でこの平仮名三文字タイトルだと思わずクラニーの作品? なんて勘違いをしてしまうのですけど、笑いこそないものの定番の結構に脱力のディテールを凝らしたところなどは、案外クラニーの平仮名三文字ホラーに通じるところがあるカモ、しれません。
物語は、かつて仲の良かった友達を事故で死なせてしまったヒロインが、連續殺人事件に巻き込まれる、――というもので、この友達がどうやら死んだあと自分の頭ン中にいるみたい、というところからサイコネタかと身構えていると、中盤以降、ミステリ的なミッシング・リンクを凝らした展開へと流れていきます。
ヒロインのお隣に住んでいるオバさんが殺されたりするものですから、件の頭ン中にいる友達に絡めてサイコものへと轉じていくかと思っていたので、最後にこうしたミステリ的にもある種の誤導を効かせたネタまで開陳して、見事に連續殺人事件を繋げてしまうところには關心至極。これは嬉しい誤算でありました。
実際、ヒロインの視点のほか、どうやら最後はこの娘っ子といいカンジになるんだろうなア、という若い刑事が登場し、彼のパートでもこの連續殺人事件を追いかけていったりする結構なものですから、ミステリっほいスパイスを鏤めてあるものの、最後はホラーだろ、と思わせるこの見せ方はなかなかのもの。
しかし事件が収束する直前に、件のホラー的な怪異が発動して、ヒロインが犯人と対峙するパートでは間一髪で助けられるものの、本作のキワモノぶりが火を噴くのはそのすぐ後。
事件も解決してメデタシめでたしと思っていると、物語の後半でチラっと出てきたヒロインのママが入れ込んでいた「あるもの」のネタが明らかにされて、――っていうか、このあたりの人物造詣がまたいかにもとってつけたような感じで、これがまた非常に微笑ましかったりするのですけど、ヒロインの體からアレしたアレがこのママのアレにアレするという後日談的なネタには、いったいどういう狙いがあるのか、と頭を抱えてしまいます。
確かにこれによって、プロローグで語られていた事故の真相が明かされるという目的は感じられるものの、いかにも唐突に登場したこいつがアレにアレされてしまうという最後のパートは、ある種のトリックを凝らしたミッシング・リンクものという本作の構成をブチ壊してしまうような蛇足ぶりで、キチンとしたかたちのキチンとした物語をご所望のフツーの本讀みはここで眉を顰めてしまうのでは、と推察されるものの、もう少し斜めに構えて読んでみると、この怪異によるアレな展開が本作にささやかな「緩さ」を添えることによちって、俄然ひばりテイストが沸き立つという全体の結構も、これはこれで良いのかなア、という気がしてくるから不思議です。
――と、何だかんだ言っても、ミッシング・リンクもののミステリとしても愉しめるし、そうやってホラーというよりは、ある種の技巧を凝らしたミステリとして見れば、このサイコネタを誤導と見なすことも可能なわけで、角川ホラー文庫ではあるものの、寧ろミステリとして讀んだ方が吉、カモしれません。
それぞれのネタを大まじめにとらえるとアレですが、いつもよりはやや斜めに構えて、クラニーあたりの脱力ホラーを頭の隅におきながら讀むと、その緩さが心地よい本作、ホラーというよりは、サスペンス、ミステリ讀みの方にオススメしたいと思います。