『破滅の箱』に続く「トクソウ事件ファイル」の後編。実をいうと前編は誰に感情移入して読めば良いのか戸惑いがあったのですが、今回はキアラにドップリ浸かって堪能しました。
物語は、『破滅の箱』の最後で事件は収束し、町には無事平和が訪れたかと思いきや、自警団やらの不穏な動きなど何者かの魔の手が再び住人を邪悪世界へと陥れようと画策している様子。窓際族たるトクソウのメンバーが隠微な犯罪の背後で進行する事件の核心へと近づこうとするのだが、……という話。
「破滅」ではワルもワルで、あからさまに邪悪な人間どもが事件を引き起こしていたのとは対照的に、今回、暗黒世界へと堕ちるのはみなそれぞれにイイ人ばかりというのがミソ。善悪でいえば善へのベクトルに向いていた力を、黒幕野郎がその真逆である悪の方へと振り向けてしまうという狂気が恐ろしい。
ヒロインの受難も交えて最後にその洗脳メソッドが公開されるのですが、このあたりの仕掛けについても世界観にリアリティを持たせるべくシッカリと説明をくわえてある親切設計が『偏執の芳香』や『病の世紀』にも通じる牧野小説。
あともうひとつ、後半となる本作では前半でご臨終となったある人物がある怪異を伴って登場したりするのですが、前半では「これ、いらないんじゃないかナ?」と感じていたキアラのある能力がここでいい味を出しています。キャラについていえば、電波男が妙なかたちで活躍したりと、時にユーモアさえ交えたシーンとともにテンポ良く進んでいくところもいい。
後半は警察内部の混沌と黒幕の暗躍をクロスさせてイヤな方向へと進んでいくのですが、すべての事件が終わったあとの無常観が何ともいえません。ここでもまたキアラの能力が悲壮にして無情な幕引きを引き立てています。
前半の「破滅」における悪たる邪悪と、本作「再生」の善なる邪悪とを対置させた構成、そして人間が見えない手によっておぞましい存在へと変化していくグロテスクさなど、牧野小説の真髄ともいえる描写が随所に光る逸品で、「破滅」でも述べた通り、警察小説とかそういうジャンルにこだわることなく、「偏執の芳香」と「病の世紀」がツボだった人は文句なしに愉しめる一冊に仕上がっているのではないでしょうか。オススメでしょう。