本格ミステリでもバカミスでもない、バカホラーな霞氏の新作。まずもって角川ホラー文庫からのリリースというところが意外なわけですが、本格ミステリ、バカミス、角川ホラーを主戰場をとするクラニー以上に、クダらないネタを妙なところで大真面目に活写した作風は完全に読者を選ぶような気がします。
物語は、金貸し社長の墓石が奇妙なかたちに壊れていたのをきっかけに、爆死としかいいようがない奇怪な死に方をした人間が続出。どうやらこの怪奇事件の背後には、金貸し会社の奇天烈ゲームと関わっているらしく、……という話。
墓石がありえないかたちに曲がっていたり、死体がこれまたトンデモないかたちになっていたり、というのは、霞ミステリではフツーにありえることなので、本作も角川ホラーの一冊でありながら案外、最後は本格ミステリ的なオチで収束するのかと思いきや、B級からZ級のホラー映画ばっかり見ていて小説なんてマトモに読んだこともないのに何故か将来の夢は直木賞作家という妄想を抱いてるアンポンタン中学生が生まれて初めて書いた小説、みたいな苦笑至極なバカネタを大量投入し、バカホラーの奇想をブチまけた風格は、キワモノマニア的には拍手喝采ものながら、フツーのホラーファン、ミステリファンは完全にドン引き。
身体の内側から爆発したような、なんていう死体の樣態から、本格ミステリマニアであれば、泡坂氏の短編のあんなかんじかな、とか、いやいやバカミスの霞氏のことだからここはやはりヘンテコなネタで、……などとどんな真相を用意しているのかとイヤな期待をしてしまうわけですが、爆発という言葉で形容される通りに中学生が思いつくようなネタを中盤でアッサリとさらしてしまったところはチと意外。
しかし、この爆死とサイコロというのがどうしても結びつかず悶悶としていると、奇天烈なゲームが始まってその曰くが唐突に語られ、さらにはそこからキワモノマニアが神として崇め奉る朝山蜻一のアレのアレから、兵藤会長以上のサド野郎がグロっぽいコロシ方を開陳したりと、苦笑ネタをいくつも盛り込んでタペストリーのようにくみ上げてみせた豪腕ぶりにグフグフと忍び笑いを洩らしてしまうものの、――その実、それぞれの怪異の出現プロセスを推理していくあたりは大真面目で、例えば件の奇怪な死に方の他、さりげなく女の幽霊の謎というのが添えられてるのですけれど、この幽霊が実はアレであんなことになってたんだよ、という真相には口アングリ。
特にこの幽霊が一人でヌボーッと現れたというのであればこのネタでも納得できてしまうものの、愛人と男のキスシーンがコレだったという苦笑脱力の真相を最後にブチまけて、この呪力が世界レベルで大変なことになっちゃったという投げっぱなしのラストシーンは意見が分かれるところではないでしょうか。
個人的にこういうのは大好きなんですが、「真面目な」バカミスファンがここまでの逸脱を許容できるものなのかどうか、バカミスファンの意見を拝聴したいところでありまして、バカミスファンも本格ミステリファンも、また正調ホラーを愛する角川ホラーのファンのいずれにも取り扱い注意、ということで。自分のようなキワモノマニアにはノープロブレムだと思うし、キスシーンの真相に凝らされた脱力の奇想だけでも本作は買い、でしょう。