「黒い少女」と同時リリースされた一冊で、こちらのプロローグは伽椰子の独り言、――という構成からすると「白い老女」「黒い少女」という順番に讀み進めるべきだったのかもしれません。しかし個人的には本作「白」を後で読んだのは大正解でした。というのも、この絶望と悲哀を交えた結末は正に大石小説でしか味わうことの出来ない風格でありまして、今までの大石ノベライズ版「呪怨」シリーズの中では本作、短いながらも一番のお気に入りとなりそうです。
物語は、クリスマスの夜、いま正に惨劇の真っ最中という家にケーキを届けにやってきたボーイがトンデモない受難に巻き込まれるところから始まります。この惨劇から七年後、アッキーナ演じるところの霊感少女のエピソードと、呪怨発動のきっかけとなった惨劇の被害者である家族の過去の逸話を交錯させながら物語が進んでいきます。
まずこの現在過去の逸話を織り交ぜた結構によって不条理な呪いが伝搬していくという呪怨の趣向を際立たせているところが秀逸で、過去のエピソードによって家族のそれぞれの暗い心情を描き出しつつ、物語が進むにつれて、発狂フラグの立ちまくっているブタ野郎へと焦点を当てていくという展開がいい。
司法試験に何度も落ちまくっているブタ野郎、16歳で出来婚した後に戻ってきた元ヤン風のバカ女、さらにはコブ付きのバツイチ中年とのセレブ生活を夢見て結婚したものの、結局はバカ女やブタ野郎どもへの家政婦へと成り下がった中年ママ、そして認知症の白粉婆というフウに、大石ワールドの住人としての要素をシッカリと持ちつつも、呪怨シリーズにもふさわしい激しいキャラたちのエピソードがこれまた大石氏ならではの筆致によって活写され、物語は次第にカタストロフに向かって突き進んでいきます。
「白い老女」とある通りに、やはり一番怖いのはこの認知症の白粉婆なんですけど、個人的には、司法試験に落ちまくって未来もナッシングのロリコン野郎からイヤらしいことをされている孫娘を助けるため、ある行動に出ようとする婆の逸話がもの哀しく、――認知症ゆえに一言も言葉を発することがないのに、こうしたエピソードがあるからこそ、幽霊となって出てきた時にはその悲哀がより際立つという怪談的な趣向も添えたキャラ立ちもいい。
これもおそらくは映像版とは違うのでは、と思われるのがアッキーナ演じるところの霊感少女の扱いでありまして、前半にはこっくりさんとかも交えて、それなりに彼女の出番もあるとはいえ、後半へと進むにつれて物語は件の惨劇に巻き込まれる家族へと焦点が当てられていくという結構ゆえ、「黒い少女」と同様、本作を読む際には映像版との違いを探ってみるのもまた面白いのではないでしょうか。
上ではブタ野郎ロリコン野郎とひどいことを書いてしまった件の発狂君も、最後の最後で独白によってダメ人間ゆえの悲哀を明らかにするあたりは大石小説ならではの趣向であろうし、またここでつくられることになった新たなブツが、物語の中で語られた呪怨を発動させるアイテムへと変じていくという恐ろしい余韻を持たせた幕引きもいうことなし。
呪怨といえば伽椰子という先入観もあって、昨日読んだ「黒い少女」が期待していたものとはいささか作風が異なっていたゆえ、本作にはアンマリ期待していなかったのですけれど、これは大当たりでした。続編がまた書かれるのであれば、今度は本作の裏主人公ともいえる白粉婆の内心を独白によってジックリネッチリと描き出してもらいたいなあ、……なんて考えてしまいます。もしかしたら伽椰子にも匹敵する素晴らしいキャラになりそうな予感もするこの白粉婆の復活を期待したいと思います。