タイトルからしてキワモノマニア的には大いにソソられるところがある本作、本格ミステリならではの仕掛けこそないものの、リアリズムに立脚した変態君の大盤振る舞いに不気味な事件の樣態など、イッキ讀みが可能な物語に仕上がっています。
いきなり喪服マニアの爺が出てきて面食らってしまうのですけど、喪服というよりは簡単にいえば脚フェチのパンストマニア。そのディテールにムチャクチャなこだわりを見せるマニアぶりのシツっこい描写だけでもお腹イッパイで、このほかにも手フェチから女装に開眼した刑事や、息子マニアなママの孤独など、人間の暗部を照射してみせる変態変格物語は、かつての探偵小説ファンにもなじみ深い世界観ながら、本作はあくまでスタイリッシュに纏めてあるところが素晴らしい。
潔癖症看護婦が美少年の體にむしゃぶりつくシーンや、爺が美少年にストッキングを履かせてそのモッコリぶりにムラムラくる場面など、ミステリらしかぬ激しさを見せるところもキワモノマニア的には好印象ながら、実際の事件の樣態に目をやると、変態君の受難を描きつつも連続殺人事件の犯人像やその動機がマッタク見えてこないところがイヤーな感じを醸し出しています。
事件の中核に件の美少年がいることは分かるのですけども、この少年は犯人なのか、それとも、――というところを限りなく曖昧にボカしつつ、刑事の視点から事件の謎を追いかけていく展開で、そこに犧牲者となった変態君たちの受難と心の闇を描いていくのですけど、それぞれのパートで扱われる変態人間の生き樣は決して交差することなく、さらには章立ても分斷されている結構がまた変態君たちの孤独と慟哭に明瞭な輪郭を与えているところも秀逸です。
ちなみに解説で山田正紀氏曰く、本作のこうした変態君の執拗なディテールに關して、「いずれも西澤保彦ならではの描写といえるだろう。ほかの作家の小説でこうした描写にお目にかかれることはあまりない」と述べているのですけど、その「あまりない」なかに、個人的には今年のキワモノミステリの収穫、石持氏の「耳をふさいで夜を走る」を是非とも入れてしまいたい誘惑にかられてしまいます。
とはいえあちらが、石持ミステリならではの歪みまくった倫理観の上に、女を見ては勃起、殺そうとしては勃起、殺しても勃起、と男の生理現象に着目したリフレインやザーメン臭いコンビニ袋といった日常的なリアリズムをブチ込んでみせた逸品であったのに比較すると、こちらはタイトル通りにフェチを大きく扱った風格ゆえ、その細部がリアルとはいえ、作品全体としてはあくまでファンタジーめいた雰囲気が濃厚であるところが大きな違いといえるカモしれません。
フランス書院文庫こそは大人の男のファンタジー小説と感じる御仁であれば本作のような作品の方が大いにソソられると思うし、個人的にも本作はそのフェチというテーマや件の美少年の謎などから、ミステリというよりは幻想小説やホラーに近い讀みをしてしまったのですけど、ヘタに謎解きなどをして挑むよりもそうした讀み方の方が、本作のディテールから謎めいた雰囲気までをも愉しめるような気がします。