大石氏の處女作。確かに語り手が過去を回想するシーンを巧みな挿話に仕上げてみせる結構や、熱帯魚嗜好、珈琲はやっぱりマンデリン、といった定番ともいえるアイテムなど、大石ワールドの原点ともいえるものがテンコモリながら、エロい風格を期待している邪な讀者にとっては異色作としか映らない一冊です。
物語は十九歳の完全受け身少年が、頭の悪そうな黒人からカマ掘られたり口淫を強いられたりと、ノッケから、SMとかのエロはいいけど「アッー!」はちょっとダメなネクラ男の出鼻を挫いてみせるかのごとき吃驚なシーンが大展開、入れ歯の婆さん相手に濃厚なセックスをしたりといった、おそらくは漫画太郎画伯の讀者「だけ」がニヤニヤ出來るであろうシーンなども交えつつ、中盤からは変態のチョイ悪親爺が登場し、受け身ボーイはこいつの奴隷となって両性具有者になる決意をする、――というフウに、まア、確かに大石小説では定番の口淫もシッカリどころかテンコモリで、そのあたりは主人公が男であることとその相手が変態爺や黒人であることを忘れれば堪能できるカモ、……とここまで書いていて、かなり無理があることに気がつきましたよ(爆)。
主人公はボーイといっても、お金持ちのオバさんにはモテモテだし、脱毛を施した美しい肢体は女を想起させるような描写もあるものですから、ノーマルな讀者のほとんどはこの主人公の受け身ボーイを小池徹平君あたりに無理矢理脳内変換して讀み續けるであろうかと推察されるものの、チョイ悪爺のサド野郎が登場してからの展開はかなり痛い。
痛い、というのは物語の展開がイタいというわけではなく、主人公が暗い部屋に監禁され性奴隷として見知らぬ野郎のアレを何度も咥えさせられ、挙げ句に入れ墨に肛門拡張までされてしまうというシーンが大石小説ならではのディテールも交えた文章で綴られていくため、ここでもそうした嗜好のないフツーの男は讀んでいて肉体的、精神的な痛さを感じること確実で、このテのやつが苦手な人はここだけ軽く讀み流すのもアリ、かもしれません。
ただ不思議なのは、主人公がシーメールになる決意をするあたりから、そうしたエグいシーンのテンコモリに相反して、登場人物たちの心の痛みが際立ってくるところが秀逸で、個人的にはかつてはもの凄い美貌を誇ったであろう入れ歯の婆さんの姿にはチと涙。
主人公のどこか鉱物的な振る舞いは純文學的で、近作では「女奴隷は夢を見ない」に登場したインド娘のキャラあたりを想起させます。また、痩せぎす女嗜好や、口淫マニア、マンデリン、熱帯魚など、大石ワールドではお馴染みのディテールにニヤニヤしてしまうのですけど、唯一「ああっ」だけがないのが近作との違いといえば違いでしょうか。ノーマルな男にとっては脂臭い黒人二人にカマを掘られるという冒頭の展開だけでも十分に「ホラー」なゆえ、或いはそうしたリアルな怖さを所望の方にもオススメ出來るかもしれません。
ただ美少年が野郎にアレされるとか、両性具有とかのモチーフは、男よりも腐女子とかの方が愉しめるような気もします。アロワナもシッカリと出てくるし、ホモだし、ということで、もし仮に大明神あたりが本作を讀まれたらどのような感想を持たれるのか、個人的には興味のあるところです。