何だか去年は和モノプログレのレビューをサボっていたので、今年はもう少しこちらの方も積極的に、という譯でまずは簡單乍らアイン・ソフの「海の底の動物園」を今日は取り上げてみたいと思います。
「ハット・アンド・フィールド」というアルバムタイトルや、ポセイドンからリリースされているリマスター版のジャケ帶に「日本のカンタベリー・サウンドの最右翼」という言葉で形容されている通り、カンタベリーサウンドのイメージが強いアイン・ソフ、しかし自分的には本作や、或いは初めて「妖精の森」を聽いた時にもカンタベリー的な雰圍氣はやや希薄に感じられたのですけど、これは個人的な嗜好の違い故でしょうかね。
イースト・ウインド・ポッドの方が一聽してカンタベリー的な音空間を濃厚に感じられる自分にとって、アイン・ソフは寧ろジャズ・ロック的な系譜の中で聽いた方が斷然愉しめます。それは單にこのバンドが持っている音感が暖かさよりは寧ろどこか研ぎ澄まされたようなクールな方向を狙っているからのような氣がするのですが如何でしょう。
例えば「ブライアン・スミスの主題による変奏曲」の中間部で展開されるジャズっぽいアプローチでは、印象的なテーマを持たずに各メンバーが怜悧に音を繋げていくことによって音空間をつくりあげていくという構成が光っていて、全体を通して聽いた音の印象もこれまた非常に抽象的。
「ウィンド・アンド・ウォーター」も非常に甘い音を奏でながらも、ひとつの楽器が奏でるテーマが表に出てくることなく、抽象的な音が水彩畫のように輪郭を持たないままに変奏されていくようなかんじです。
心地よい疾走感に主題を託して音が進む「駱駝に乗って」は、ギターが前に出ると俄然音の抽象度が増してくるところが獨特で、一聽した後は清涼感にも似た心地よさが殘る曲。
またメロウな雰圍氣が満喫できるのは「光をあつめて」の前半部で、當に暖かな日射しの中でマッタリしているような前奏部から一轉、輕やかな疾走を見せてくれる中盤の展開はかなりツボ。派手さこそないものの、決して重く流れないギターも素晴らしい。
という譯で、いずれの曲も無闇に旋律を追いかけることなく、抽象的な音空間に中にたゆたうような雰圍氣で聽いてみるというのが、このアルバムの、自分なりの聴き方でありまして、一曲一曲が強烈な個性を主張しないぶん、ひとたびプレーヤーに入れると繰り返し聽いてしまうような因果なアルバムともいえるでしょう。
そんな譯で最近リマスター版を手に入れたこともあってBGMがわりにと結構聽きこんでいるのですけど、未だに一曲一曲の主要な旋律が覚えられないというのは如何なものか(爆)。決して単調な音ではなく、寧ろ音の方は輕妙ながら非常に密度の濃いものなのですけど、キャッチーなメロディで曲を紡いでいく構成とは異なるゆえ、この音の抽象度が何ともいえない心地よさを釀し出している反面、音が耳に残らないのかなア、なんて思っているんですけど、実際のところはどうなんでしょう。
「妖精の森」よりも遙かにつくりこまれた楽曲ながら、抽象的な音の雰圍氣はカンタベリーというよりは、ムード音樂として聽き流せる心地よさを持ったジャズ・ロックといったかんじでしょうか。疾走感とマッタリとした甘さが好きな方にオススメしたいと思います。