台湾から光の魔術師、降臨。
ずっと黙っていようと思ったんですけど、もう我慢出來ないので取り上げてしまいますよ。本作は「ファウスト」にも掲載された台湾の漫畫家VOFANの詩畫集なんですけど、「VOFAN、Colorful Dreams」のキーワードでググってみても全然日本のサイトがヒットしない譯です。
「ファウスト」にも掲載されたんだから、日本の漫画マニアの一人や二人は興味を持って取り上げているに違いないと思い、リリース當事から折を見ては檢索を繰り返していたのですけど、何だか誰もレビューもしていないという状況はよろしくない、それでは「台湾ミステリを知る」の番外編というかたちで本作を取り上げてみようと思った次第です。
何で今まで黙っていたかっていうと理由は簡単で、まずこのブログでは漫画を取り上げていないということもあるんですけど、自分が何かの本をレビューする時に言及している漫画がもう相當にアレな譯で。だってねえ、やはり楳図センセの「洗礼」は大傑作とか、ひばり書房のスカムホラーとか、城たけしの「呪われた ジャイアンツファン」と徳南晴一郎の「人間時計」はマニア必讀だとか、やはりコガシン先生は「妖虫」と「餓鬼」で決まり、とか、ジョージ秋山師匠の「アシュラ」復刊萬歳とか、こういうことをいっている輩のブログで取り上げられてたら、たびたびここを訪れてくださる方々がVOFAN氏の素晴らしい繪世界にあらぬ先入觀を持たれてしまうのは必定、ここはグッと抑えて抑えて、……と考えていた譯です。
まあ、それでもこれだけの才能が日本人の誰も取り上げずにマイナーなままで終わってしまうというのは納得出来ないッ、という次第で、今日は簡単乍らレビューをしてみたいと思いますよ。
本作には月刊「挑戰者」の2004年7月號から2005年7月號までの一年間に掲載された全12編が収録されています。いずれも六頁に滿たない掌編であるとはいえ、その短い頁数で展開される繪世界は個性的で、まずそのくすんだ色彩から釀し出される空気感が素晴らしい。パステルカラーを基調としつつも、どこかノスタルジックな雰圍氣が感じられるのは、そのくすんだ色遣いによるものだと思うのですが如何。
例えば「九分的珈琲店」は、閑古鳥が鳴いている珈琲店の女性の一人語りで進む掌編なのですが、セピア地の画風が九分という土地から連想される郷愁を巧みに表現しているところがいい。
また九分のようないかにもベタな舞台を用いなくとも、獨特のくすんだ色彩から釀し出されるノスタルジーは顕著で、例えばそれは「避雨記」のようなふしぎ小説フウの物語と見事な親和性を見せてくれます。これは弁当を忘れて会社に行ってしまった父親に、娘が弁当を届けようとするのだけども、突然雨が降り出してきて、彼女は小さな廟で雨宿りをするのだが、そこには神樣の像がゾロゾロと棄てられていて、……という話。日本だと多分、このネタって昔話フウにしないと雰圍氣を出せないと思うんですよ。廟にうち捨てられた不氣味っぽい神像の繪も含めて、日本人から見ると非常に台湾的なネタで微笑ましい。
そのほかで印象的だったのは、少女が廃虚で見つけたラジオを聞いているうちに眠ってしまって、……という「廃虚流浪」、バスの中でお化けのふりをして会話に茶々を入れる女の子の惡戲を描いた「怪談公車」、町中で老猫を見かけた女の子がその猫を追いかける話でオチがこれまたふしぎ小説フウに決まっている「躲猫猫」、収録作の中では濃密な夜の気配と靜謐が素晴らしい雰圍氣を出している「廟前廣場的露店電影院」、公園のベンチに座って、通り過ぎるひとびとの「風」を感じる少女を描いた「個人風」あたりがツボ。
絵柄は勿論なのですが、「廃虚流浪」や「怪談公車」など、ふしぎ小説フウの結末が素敵な餘韻を残す作品が好みですかねえ。まあ、幻想小説ミステリ好きとしては漫画とはいえ、やはりオチにもこだわってしまう譯で。
で、ちょっと氣になっているのが、最近の「挑戦者」とか見ると、取り上げられている主題というか物語の舞台が微妙に變化してきているような氣がするんですよねえ。一瞥して舞台が台湾であることを想起させる要素を少しづつ物語や絵世界の中から退けていっているように思えるのは氣のせいでしょうか。
本作に収録されている作品だと、例えば「九分的珈琲店」などはそのまま、ノスタルジックな台湾の一面を体現した九分を舞台に据えているし、「避雨記」では街中の小さな廟が出て來る。「怪談公車」のバスはもう誰か見たって台湾のバスで、学生たちの制服もすぐに台湾のものだと分かるし、「躲猫猫」は冒頭からいかにも台湾フウの屋根が印象的な建物が描かれていて、……というかんじ。こういう外から見たら非常に台湾的な風景を退けていっているような氣がするんですけど、どうでしょう。
まあ、このへんは自分が台湾人ではないゆえに感じるだけなのかもしれません。これを作者のVOFAN氏が意識してやっているのだとしたら、これが今後彼の作風の變容にどんなかたちで影響をもたらしていくのか氣になるところですよ。
詩的なイラストが好きな人や、台湾漫画の現在に興味がある人(いるのか?)には是非とも手にとっていただきたい傑作詩畫集。本当はファウスト讀者の、もっと若い人たちにVOFANを語ってほしいものですよ。そちらの方が、自分みたいなキワモノマニアのオジサンが語るよりも遙かに説得力があると思うのでありました。
夕月さん,
讀了しました。VOFAN氏の創作手法などファンには見逃せないような内容に大滿足です。
台湾的な原風景からのVOFAN的夢幻世界への變容によって、氏の物語が讀者を那邊に導いていくのか、これからも目が離せませんね!
ただ、本當は自分のような中年ではなく、もっと日本の若い方に讀んでもらいたいんですよねえ、VOFAN氏の作品は(爆)。何かこう、もっと日本の漫画ファンにアピールしていく方法って、ないもんでしょうかねえ。台湾の漫画ファンと日本の漫画ファンの交流とか、ないんでしょうか。ミステリと違って、漫画界隈の出来事には疎いもので。
え…横レスですみません。6月24日発売予定の『コミックファウスト』には、VOFANの新作が載せています。これから日本でも動く予定がありますので、お楽しみください。
[…] 這不僅只是架空的浪漫,VO的表現,讓日本《Faust》編輯都開始問?:「台灣的防火巷真的都是這樣・亨?好想要來看看。」而在taipeimonochrome這個日本的中日文推理blog,也談到從日本人的角度,觀看《COLORFUL DREAMS》描繪台灣日常風景的新奇感受。不過,站長Mark先生在他的感想中也談到,近來在《挑戰者》上的新連載中,獨到的台灣風景漸漸退去,VO挑選的主題和場景似乎開始撤回插畫的想像世界,讓人有點在意將來的走向…… […]