前回までのあらすじ。
「過去にあった事実は恥ずべきものとして隱蔽することのできるものではな」いと、国定の韓国歴史教科書からの引用で、日本の嫌韓派にさりげなくジャブをくれて幕を開けた物語は、受刑者と刑務官の思わせぶりな會話のあと、舞台を日本の福岡に移します。
大學で韓国語を勉強し、日本人の友人と挨拶をする時も韓国語を使うほどの韓国フリークである主人公はテコンドーの猛者でもあり、彼は靈園で死にかけている男から鍵と名刺を預かります。彼はまず本屋に行って韓国語の勉強をする為に韓国人の作家の本の邦訳版を購入しその本を讀み終えると、歡樂街をさまよいつつ、適当なビルに飛び込んで名刺の男はいないか、と店の中で喚き立てる。
あまりにシツっこい主人公に辟易した店の用心棒が手を出すと、主人公は踵落としで牽制し、續けて男の鼻に蹴りを食らわせる。男が「でべぇっ!」と絶叫しながら鼻血を出して卒倒すると、後はもう祭だとばかりに男たちを得意のテコンドーでバッタバッタとなぎ倒した主人公だったが、……。
あと、忘れてたんですけど、主人公が歡樂街をさまよう前に、韓国の大統領が登場するシーンもありまして、これが結構長い。この韓国が舞台となっている大統領のシーンも、空行だけで、大統領の夫人を視點にした場面と、大統領を視點に据えた場面、更には福岡で死んだ男に絡んでいるらしい国家情報院の男の視點が併行して進みます。この通り複数の視點に分かれているので、韓国シーンの全体が冗長といえど、それぞれの場面は短く追いかけるのが大變です。
そこで語られていることというのを簡單に纏めると、大統領夫人の場面では、何だか今日は大統領にとっては大事な日であるということがほのめかされ、国家情報員の男のシーンでは「身なりのいい日本人觀光客やエリート然としたビジネスマン」を嫉妬しつつ、韓国での就職事情などに愚癡を垂れる男が描かれます。そのほかにも韓国での兵役についての知識が開陳され、北朝鮮に對する政策において上司と議論する場面が延々と續きます。
この政府内において親北派と北強攻派の對立があることがほのめかされており、どうやら福岡で殺された男はそれに關連しているようなのですが、この時點ではまだ何も見えてきません。
その後舞台は再び福岡へと戻り、ついに探していた名刺の人物、蔡(チェ)と會うことが出來た主人公が、お前には身の危険が迫っているからといわれて、彼が住んでいるマンションへと連れて行かれます。蔡がいうには、あの殺された男というのは、彼の學生時代の知り合いらしいのですが、それ以上の關係は彼の口からここでは語られません。
マンションに向かう間、主人公は蔡から男のことを色々と聞き出そうとするのですが、何しろこの蔡という男も學生時代しか知らないのですから埒があきません。「韓国政府がどうなろうと知ったこっちゃない」と吐き捨てるようにいう蔡の台詞のあとに、主人公の独白とおぼしき地の文で、韓国政府がいかに日本の在日をぞんざいに扱っているかについての言及がなされているのですが、この蔡という男が自らを在日と告白するのは物語のずっと後のことですよ。
この時點では主人公は蔡が在日がどうかも分からない筈だし、この會話の中では在日のザの字も出ていなかったんですけど、とにかく主人公はこの蔡という男を在日と確信したようです。しかし何故?どのような推理によって?謎です。日本語が出來るからでしょうか。でもニューカマーかもしれないじゃないですか。
このあと再び話は例によって大統領のシーンへと飛びます。情報部員の一人が大統領に男が日本で死んだことを報告し、そこから物語は更に大統領がその男と知り合うことになった事件の回想となり、それが六頁ほど續きます。しかしこれがあまりに長いので、物語が回想シーンであったのをすっかり忘れていると(ドグラ・マグラ?)、再び空行をひとつ隔てて物語は大統領と情報部員が話をしているシーンへと戻ってきます。
そして大統領に届けられる筈だったあるものを手に入れる為、福岡で死んだ男の代わりに腹へ一物ありそうな男がその仕事を引き繼ぎ、……というところで、物語は再び「大統領襲撃事件との関連などつかめないまま、ワンボックスは夜道を進んでいく」という奇妙な一文とともに、テコンドーの主人公の場面へと戻ってくるのですけど、この一文、どうコネくりまわしても意味が分かりません。
「大統領襲撃事件」っていうのは、大統領の回想シーンで登場した事件には違いないのですけど、これと「何の」関連を「誰が」つかめていないんでしょう?この地の文、主語も拔けていれば、主人公のシーンと大統領のシーンもまったく關連性がない譯ですから、「関連などつかめないまま」も何もありません。
あるいはドノソやリョサやコルタサルみたいなマジックレアリズム風の文体の模倣をしているのかと再び回想シーンの六頁を戻って何度も讀み返したのですけど、やはり意味が分かりません。自分、本當に莫迦です。
……まあ、こんな小さなところにまでツッコミを入れていたらキリがないので先に進みますけど、実をいえばこういう小さな不明點が積もりつもってそれを放置しておいたまま讀んでいくと、まったく何が何だか分からなくなってしまうんですよ。で、再び數節戻って讀み返したりを繰り返しているんで、もうこうなるとエンターテイメントというよりは、コ難しい哲學書を讀んでいるようなかんじになってきます。しかし本作は自分のような素人がウェブ上に書き散らした文章などでは決してなく、大手は講談社の編集を經て世に出された作品な譯ですから、話に整合性も何もないような物語である筈がありません。だとすると、やはり、……自分の頭が惡いんでしょうねえ。悔しいですけど。
さて、主人公がヤクザの男に連れられてマンションに到着すると、何故か學食で見かけた美女がいます。しかしこれにも意味はなく、月9ドラマフウの偶然、ということで物語は進むのですが、美女は主人公が日本人だということで、どうにも心を開いてくれないどころか、日本人のことを「倭奴(ウェノム)」といい、握手をしようと手を差し出した主人公に對して、「ウェノムと握手する手はもっていない」とバッサリ。ヒロインの美女は敵意むきだしです。
ほどなくしてこの美女の祖母が慰安婦であるというこれまた御約束の事実が明かされたあと、ヤクザは彼女に日本語を教えてほしいと主人公に頼みます。訳も分からずマンションに連れてこられて、更には日本語を教えろ、とトンデモない状況に置かれても主人公は自分の今の状況に思いを巡らすこともなく、とにもかくにも美女と會話をしようといろいろな策を巡らせるのですが、……と、この美女と主人公の場面が展開する前に、大統領夫人のシャワーを浴びるお色気シーンが唐突に挿入されます。そしてシャワーを浴びると、何かいつもと樣子が違う大統領と「あなた、どうしたの」「何でもない」「いや、あなた何かおかしいわ」「いやいやそんなことは……」みたいな會話が續き、大統領は彼女をベットに押し倒して接吻。
そうして章が變わり、ここで物語にもう一人の重要な人物が加わります。主人公のシーンだけでも視點は錯綜し、それに大統領のシーンが加わって、物語全体としては男が死んだだけでさして話は展開していないものの、視點の交錯が執拗に繰り返されるため、讀者がこの話に追いついていくのは大變です。そこへ新たにまた一つのシーンが追加されるっていうんですから頭の惡い自分には堪りませんよ。
このシーンで登場する男は刑事。彼はどうやら靈園で死んでいた男の事件を追っているようなのですが、この男が昔、警察をやめて探偵をやっている同僚に電話で呼び出されるところからこの章は始まります。
男は元同僚に、死んでいた男の情報を教えます(いいの?)。それによると、男の名前はチェジョンソル。チェですよ。漢字は違うんだけど、主人公をマンションにかくまった蔡(チェ)と同じです。で、以後はこの刑事が事件を追いかけていき、最後に主人公のいるマンションにたどり着くんですけど、この刑事のパートでは蔡は依然として「チェ」という名前で言及されており、その一方、節を隔てて主人公のシーンに移ると、これが蔡という表記に變わります。
更に蔡と青年が刑事の前で取っ組み合いを始める同じ場面が、主人公の視點と刑事の視點とで交互に語られるのですけど、ここでも刑事の視點の時は「チェ」と書かれ、主人公の視點では依然として蔡として書かれているんですよ。既に二つの場面は繋がっているのに、何故ここでも記述を變える必要があるんでしょう?それともここに何かアレ系のトリックがあるんでしょうか? スミマセン。莫迦な自分は全然分かっていませんよ。
何だか二回だけで終わらせようとしたのに、細かいところまでくだくだと書いていたらまた長くなってしまいました。次こそは本當にちゃんと終わらせます。次號はヒロインの反日語録なども交えて本作の魅力をあますところなく傳えようと思っていますので乞御期待。