今少し、前回取り上げた美狂乱の「魁!!クロマティ高校 オリジナルサウンドトラック」のネタで引っ張ってみようと思います。
さて、プログレにアニメというと、一見非常に奇天烈な氣もするのですが、探してみると意外やプログレ系のアーティストがアニメソングを作曲していたり、或いはその逆にアニメソングといえどもプログレ風の曲があったりしと、このアニメソングという分野もプログレマニアにしてみれば決して莫迦には出來ない分野である譯で。
で、今回はそんな中からレアものをひとつ。若い人は知らないでしょうねえ、ノイズ、パンク、プログレ、アバンギャルドといったあらゆる先鋭性を内包した超絶バンド、YBO2が「太陽の皇子ホルス」なるアニメソングを手がけた作品、「太陽の皇子/空が堕ちる」を今回は取り上げてみたいと思います。
[11/24/05: 追記
うた夢さんから御指摘頂きました。本作はYBO2がアニメのサントラを手がけた譯ではなく、北村氏が「太陽の皇子ホルス」の曲をカバーしたものとのことです。詳細は以下コメントを參照のこと。うた夢さん、ありがとうございました!]
日の丸をあしらったジャケにアニメソングは全然似合っていないんですけど、まあ、このアルバム自體、アニメのサントラという譯ではないのでこのジャケデザインは軽くスルーするとして、まずはこのアルバムの面子から見ていきましょうか。
ベースに北村昌士、そしてドラマーには最近取り上げた高円寺百景でもお馴染みの怪物ドラマー吉田達也、更にギターにはZENI GEVAのnullと錚々たる、というか怖すぎる面々が集ってつくられたアルバムですから出來が惡い筈がありません。
實際、一曲目の「太陽の皇子」からして、「これでアニメソングですかッ!」とツッコミを入れたくなるほどの凄まじいテンションで突っ走ります。
北村昌士の不安定なボーカルが遠くで響く冒頭に續いて、ノイジーなギターとメロトロンの前奏が始まります。確かに「行け、走れ、ホルス」というヌルい歌詞にかろうじてアニメソングの面影を留めてはいるものの、そのあとのメロトロンの音をバックに暴走する吉田達也のドラムを聽いたら、普通のアニメソングでないのはバレバレです。
とにかく、ドラムがもうやりすぎというくらいに暴走しているところが何というか。ただ最近の吉田氏のドラムと比較すると、疾りっぷりは現在と大きな違いはないものの、手數はまだまだ控えめですねえ。暴走をやめないドラムと調子っ外れのボーカルがあまりに凄すぎる為に、間斷なくノイズを振りまいているnull氏のギターが妙におとなしく聞こえてしまうところがちょっと笑える。
續く「WHY I?」もまた冒頭の縱横無盡に趨りまくるドラムがとにかく凄い曲。ミキシングの為か、ここでもノイジーなギターの方が數段おとなしいかんじがしますねえ。ボーカルは後半の呻き聲だけで、最初から最後まで暴走しまくるドラムがとにか際だった一曲でしょう。
「空が堕ちる」は裏で鳴っているドラムの手數の多さが目立ち過ぎてはいるものの、ノイジーでありながら流麗さが際だつギターと、プログレというよりはパンクっぽいボーカルが滅法恰好いい。
「WARCHILD」はまたしても吉田氏のテンションの高いドラミングに、お得意の雄叫びまでもが加わって展開される冒頭部が凄いの一言。とにかくこの前奏部のドラムの鳥肌がたつような恰好良さと、地を這うようなギターでしょう。このギターに併せるように超低音で地鳴りをあげるドラムが印象に残ります。最後は空襲警報のようなギターが鳴り響くなかに、前奏部と同じドラムと雄叫びが再現され、次第次第に速さを増していく展開で締めくくります。
最後の「AMERIKA」はYBO2の代表曲でもある譯ですが、正直このアルバムに収録されているExtended long Versionは些か冗長のような氣がしますよ。この曲ではギターがいつになく狂暴に聞こえます。例によって悶えるような呻き聲と沼底を這い回るようなノイズギターが恐ろしく、執拗に同じリフが繰り返され、何処か呪術的な雰囲気さえ感じられる一曲です。
という譯で、捨て曲なしの美味しいアルバムです。鼠のジャケで有名な「ALIENATION」はおとなし過ぎて個人的にはあんまり、なんですけど、本作はとにかく吉田氏のドラムの暴走ぶりがかなりハジけていて、三人のやり過ぎ感が際だった素晴らしい作品に仕上がっているのではないでしょうか。
それにしても何故YBO2がアニメソングなんでしょう。本作に収録されている「太陽の皇子」を一聽すれば明らかな通り、とてもやっつけ仕事で片づけたとも思えないし、どういう経緯で彼らがこの仕事を引き受けることになったのかちょっと興味がありますねえ。
[11/24/05: 追記
という譯で、恐らく北村氏がこのアニメのファンだからではないかと思う譯ですが、實際のところどうなんでしょう]
[12/22/05: 追記
藤井政英氏からコメントをいただきました。北村氏は「ホルス」のファンで、YBO2以降はケルトや中世音樂にも傾倒していたとのこと。詳細は以下の藤井氏のコメントを參照下さい。]
はじめまして。
『太陽の王子 ホルスの大冒険』は1968年制作で高畑勲、宮崎駿をはじめ現在の日本のアニメ界を代表する方々が作ったアニメ史に残る名作で、このアニメのサントラは日本現代音楽の巨匠である間宮芳生が作曲した管弦楽曲&合唱曲です。
決してYBO2がサントラを手がけた訳ではなく、現代音楽にも精通していると思われる北村氏が、この曲をカバーしたのだと思います。
ワタクシはどちらのバージョンも好きです。
うた夢さん、こんにちは。
そうでしたか! すみません、全然知りませんでした。68年というと、かなり昔ですね。カバー、ということは、間宮芳生版のメロディラインなどがこの曲の中に殘っているということでしょうか。だとすると、YBO2らしくないと感じられた冒頭の歌の部分の謎も解けます。
fujiiさん、こんにちは、……ってリンク辿ったら、藤井政英さんでしたかッ!吃驚しました(^^;)。コメントありがとうございます。
そうでしたか、上でうた夢さんが示されていた通り、北村氏が「ホルス」のファンだったというのは新しい発見でした。お恥ずかし乍らYBO以降の北村氏の音を追い掛けていなかったので、トラッドや中世音楽の方に系統されていたというのも知りませんで、そうしてみると、「ホルス」っていうのは、北村氏の音樂のコアな部分にあるものなんですね。うーん、それでも北村氏のイメージと「ホルス」というのが自分の中ではどうしても結びつきませんよ(^^;)。
個人的には北村氏が中世音樂のどのような部分を突き詰めていかれたのかちょっと興味がありますね。