前回取り上げた「魁!!クロマティ高校 オリジナルサウンドトラック」を手がけた美狂乱ですが、彼らを語る時に必ず引き合いに出されるのがキング・クリムゾン、ですよねえ。
で、今回取り上げる貳代目金属惠比須の本作も、ジャケ帶を見れば「ソリッドなサウンドとメロトロンが調和した70年代クリムゾン・フォロワーへと進化!!」とあったりして、クリムゾンの音が好きなプログレマニアをターゲットにしていることが窺える譯ですが、もうやめましょうよ。クリムゾンクリムゾンって。
というのも本作はクリムゾン云々というのを拔きにしても、日本プログレ史上に殘る傑作アルバムだからでありまして、……といいつつ、確かに彼らの音を説明するのに、往年の七十年代アーティストの作品を引き合いに出して語りたくなる氣持も分かります。實際、特に自分みたいにずっとプログレばっかり聽いてきたオッサンにこの音を説明するにはそれが一番樂ですから。
例えば一曲目の「紅葉狩」。重いノイズがフェイドインしてきたあとに繰り出されるハモンドの恰好良さなどは當にUKを髣髴とさせますし、柔らかなフルートの調べとハモンドにメロトロンふうの音でたおやかに展開される中間部を過ぎてから、ふっと入ってくるギターのアルペジオなどはそのまま「宮殿」からの引用でしょうし、更には後半のキーボードなどはELPの「タルカス」、更には、……といちいちツッコミを入れたくなってしまいます。
しかしそのあとの森田童子ふうの、…いや、ここでも七十年代プログレからの引用をすれば、鬱病持ちのアニー・ハスラムのような不安定な女聲ボーカルで歌われる歌詞などは當に和プログレでしか表現出來ないものだと思うのですが如何。
そして何よりも強調したいのは、樂曲の殆どの部分が七十年代プログレの引用からなるものといいつつも、それらを巧みに融合させて、見事な伽藍に組み上げるとなれば、口でいうほど簡單なものではありません。往年のプログレバンドの美味しい旋律をすべてつまみぐいして一曲に仕上げるといっても、そこにもまた樂曲の構成力という大變な技術が必要とされる譯で。
だからこの部分はこの曲がネタ元だろ、なんてくだらない指摘をするよりも、例えばボーカルが終わったすぐあとに展開される「フリップ・ギター」の無類の恰好良さなど、隨所に引用を飾りつつも、それを大きな流れのなかで繋げてみせる彼らの構成力を自分は買いたい譯であります。それが彼らのオリジナリティである、と。
實際、この「紅葉狩」は往年のプログレの美味しいところが畳みかけるように展開されるのですが、それでいて全く違和感がありません。更に、ここが一番重要だと思うんですけど、二十分近い大曲であり乍らまったく飽きさせない。要所要所に隙間なく引用を鏤めながらも、これだけの曲に仕上げるというのは正直、生半可なアーティストに出來ることではありません。それでもまだパクリだの何だのと嘲笑している大御所の方に自分は問いたい。考えてみてください。UKとELPとクリムゾンの引用を行いつつ、鬱病持ちのアニー・ハスラムに純和風の歌を歌わせるなんて出來ますかそんな氣狂いじみたことが。いや、襃めてるんですよ。大眞面目に。
かといってツッコミを入れることをとがめている譯では決してなく、勿論本作にはそういう愉しみ方も大いにアリだと思います。例えば二曲目の「彼岸過迄」ですが、眞っ當なハードロックを裝ってはいるものの、歌詞が何氣に「スチャラカチャカポコ」だったりとこれまた普通ではありません。ここで「今度は人間椅子かいッ」と笑いつつツッコミを入れてみるのもよし、或いは中間部の、もたつきながらもぐいぐいと雰囲気を盛り上げていくギターソロに「今度はギルモアかいッ!」といってみるのもいいでしょう。
この曲も普通のハードロックっぽい雰囲気を出してはいますが、シッカリ泣きのメロトロンを披露させたり、再び「宮殿」のアルペジオが出て來たりと、プログレ好きの出自は隱せない曲展開に思わずニヤついてしまうこと受け合いです。
續く「獵奇浪漫」も、これまた凶惡なギターの導入部が何処となく筋肉少女帯を連想してしまうのですが、よくよく歌詞を聴いてみればあまりの莫迦莫迦しさに笑ってしまいます。
「君のおうちのお風呂のお湯になりたい~」という珍妙な雄叫びに、ここはオーディエンスとしては「これは、……『釈迦』か。やはり筋少……」と導入部を聽いたときに感じた自らの直觀を確かめるのもよし、或いはそのあとの「フリップ」ギターの恰好良さに素直に痺れてみるもいいでしょう。それにしても「満開の愛情 熱エネルギーに換えて~」という歌詞の莫迦莫迦しさは、人間椅子の「エベエベ」と同じくらいの破壞力がありますねえ。
「ディシプリン」ギターの後のキーボードソロに耳を傾けつつ、「なるほど、ここは『Cinema Show』できたか」とか、「いやいや、この音色からすると寧ろジェネシスを引用したIQかも……」と孫引きに言及しつつ獨り言を呟いてみるとしましょうか。そしてそのあとの展開に「これは『Seconds Out』の『Dance On A Volcano』から『Los Endo』へ移るところの……」と再び茶茶を入れつつ「だとするとやはりあそこはIQではなくジェネシスだったか……」と自分の推理を敷延するのもいいでしょう。しかしそのあとのオフザケに「今度はZUBI ZUVAの『DOMO DOMO』かいッ!」とツッコミを入れるのも忘れないように御願いしますよ。
という譯でこのアルバム、個人的にはかなり推しているんですけど、心配なのは完全にイロモノ扱いされて、彼らの卓越した構成力が正統に評價されないのではないかというところでありまして。しかし彼らのサイトを見る限り、……どうやらイロモノ路線で突き進む決意をされたようですねえ。餘計な心配だったようで。
美狂乱とアネクドテンだけじゃ物足りない、という方にお薦めしたい傑作。特に「紅葉狩」は日本プログレ史上屈指の名曲だと思うのですが、どうでしょう、大御所の皆樣。